インピーダンスマッチング(その3)
4月7日の記事(Link)で言い忘れていたことがありますので追加いたします。
送り出し側のインピーダンスが 50 Ωでないときはそこでの反射がありますが、ことはそう単純でない場合が多いのです。 ラインをドライブする回路は、上がり側と下がり側でインピーダンスが異なる場合あります。 そうすると、どうなるでしょうか。

まず、13m の同軸線に通常の 50 Ωで送り出し、終端は解放にしてみますと右の図のようになります。 黄色は送信端の電圧で、緑は受信端の電圧です。 目盛りは横が1目盛 100ns、縦は 1V です。
立ち上がり直後は、送信側では、50 Ωの内部抵抗とラインの特性インピーダンスの 50 Ωとで電圧分割され、送り電圧の 3V の半分 (1.5V)が見えます。
受信側では、解放ですから、いきなり 1.5V の倍の電圧が見えます。
この 3V は送信側に(逆方向に)伝わっていき、送信側で 120ns のところで特性インピーダンスと内部抵抗で分圧された 1.5V が上乗せされます。 つまり 3V になるわけです。
この端子は 50 Ωですから反射は無く、そのまま安定します。 (受信の 180ns にちょっとだけピップがありますが、ご愛敬)

さて、今回の話題は、送信側のミスマッチです。
送り出し側に直列に 100 Ωを入れ 150Ω で送り出してみます。
立ち上がり直後は、150 Ωと 特性インピーダンスの電圧分割で、 1/4 の電圧が見えます。
これが 60ns 後に終端まで行き、この解放端では 1/4 の倍 (1.5V)が現れます。 60ns 直前と直後の差分である 1.5V は送信側に送り返され、120ns のところで送信端に達し、1.5V を特性インピーダンスと 150 Ω で電圧分割した (1.5 * 3/4 = 1.125V)値が上乗せされて、1.9V になります。
送信端の 120ns 直前直後の差分 1.125V の 1/4 ;が受信端に向かって進み、180ns のところで解放端に達してその2倍の電圧 0.56V が上乗せされ 、、、、
ということが繰り返されて、両端ともだんだん 3V に近づくわけです。
立ち下がりは、この絵を上下逆にしたものになります。
さて、ここからが本題です。
TTL で 7400 というチップがあります。 本来はラインドライブ用ではありませんが、もしこれを使って Coax をドライブしたらどうなるでしょうか。 下の絵はそれを表しています。
左側が立ち上がりの図で、右側が立下りの図です。 (ごめんなさい、右側の絵で緑の線が下にはみ出しましたので緑だけ 2 目盛り持ち上げています。)

この絵を読み解きますと、次のようになります:

立ち上がりは、インピーダンスが 50 Ωより高く、おそらく 70 Ωぐらいでしょう。 上の予備実験で、 150 Ωで送り出したときと同じような形状ですね。
立ち下がりは特異な形をしています。 これは、出力抵抗が 50 Ωより遙かに低く、負側の反射が発生していることを表しています。 目盛りから読みとると、およそ 10-15 Ωぐらいになります。
つまり、ラインドライブでない TTL では、立ち上がり側のインピーダンスは 50 Ωより高く、立ち下がり側では 50 Ωよりずっと低い特性を持っているわけです。 上がりと下がりで異なるので、使うときには注意が必要です。
7400 の出力段はトーテムポール型といって、上側はエミッタフォロアで引き上げ、下側はコレクタで電流を吸い込んでくれます。 ただし、上り側は電流供給能力が非常に小さく作ってあります。 これは、次段に TTL の入力端子をつないだとき、負荷のエミッタから電流を引き抜く必要があるけれど、上がり方向では電流を与える必要がないためです。
それに似たケースで、トランジスタのコレクタに 50 Ωをつなぎ、カットオフと飽和の領域で使った場合も同じことが起こります。
このときは、上がり側はマッチングが取れていますので問題は発生しませんが、下がり側では、TTL の場合よりもインピーダンスが低いのでより深刻になります。下の右側の図で、はでなリンギングを起こしています。
リンギングの周波数は Coax の電気長を 1/4 波長とする周波数、すなわち約 4.2MHz です。


ちょっと終端でグラウンドからシリコン PN ダイオードでクランプしてみたらだいぶましにはなりましたが、まだ汚いですね。 (右図)
では、エミッタフォロアでドライブするとどうなるでしょうか?

上がり方向はエミッタの電流供給能力が高いですから、低いインピーダンスになります。
下がり方向は、エミッタ負荷抵抗のインピーダンスになります。


ちょうどコレクタドライブと逆の現象が起きました。
同様に、終端で中間電圧へダイオードでクランプしてやると右の図の様になります。
まとめ:
1.伝送線をドライブする場合で、伝送線の終端や途中で反射があるときは、送り出し側のマッチングが取れていないとリンギングを起こしたり、すなおに立ち上がらない。
2.送り出し回路は、コレクタドライブでカットオフと飽和でドライブしたときや、 エミッタフォロアでは上がりのインピーダンスと下がりのインピーダンスが異なるため、両方でのマッチングは取れない。
[関連記事]
インピーダンスマッチング (その1)
インピーダンスマッチング (その2)
「トランジスタ技術」2019年4月号 pp54-57
[余談]

上の記事で、終端がマッチングされていないと送信端のマッチングが問題になることを解説しました。
で、終端を抵抗でマッチングさせますと、そこで電力消費が発生します。 バスの幅が太くなりますとこの量はバカにはなりません。
上の例で、終端をダイオードクランプさせてみました。 波形はまだ汚いようでしたが、電圧の収束はリンギングが起きているときよりははるかに早くなっています。 実験では PN のダイオードを使いましたので 0.6V のバウンスが見られたのですが、SB ダイオードならバウンスは少なくなります。 (電流容量には気を付けて)
この方法の利点は、電力消費が少なくてすむことです。

さらに言うと、送信側のマッチングを取らず電源電圧まで振って送り出し、終端でグラウンドと電源の間でクランプさせると、送信側のマッチング抵抗の電力消費も無くなります。 ちょっと波形が崩れるでしょうが、妥協できる範囲に収まれば儲けものです。 スイングも大きく取れますし。
あまり使われていないようですが、憶えておくと何かの時に使えるかも知れません。
