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Op-Amp その1 - 理想特性


オペアンプの使い方についてはたくさんの書物が出ていますので、あまり述べることはないのですが、 それでもアナログ回路を扱っている以上ある程度は書いておかねばならないでしょう。

何回かに分けて、オペアンプの理想的な特性、現実の特性、内部の回路の解説、いくつかの応用例といったことを書いてみます。
今回は、オペアンプが発達してきた段階で理想をどこに置いてきたかをお話ししましょう。
次回は理想に対して現実の特性はどの程度で、どう妥協されているかを述べることにします。

以下では一般的な 2 入力端子、1 出力端子、電圧入力、電圧出力、非チョッパ型のオペアンプについての理想特性です。


Gain:
2 入力の電圧の差が増幅されて出力電圧になります。  このときに十分低い周波数における増幅率は、無限大を理想として進歩してきました。  今では 100dB 程度になっています。
仕様書上の単位は dB で表したり、V/mV であったりします。

演算増幅をする場合は負帰還回路などの外部回路だけで入出力伝達関数が決定されるのが使いやすいのですが、 負帰還のあるときの正入力から出力までの増幅率はオペアンプのゲインを A0 とし帰還回路の伝達関数を G としたとき 1/(G+1/A0) で決まりますので A0 が無限大だと G だけの式になって簡単です。

周波数特性:
上記の増幅率は低い周波数だけでなく、高周波においてもそのまま伸びていることが求められます。  無限大の周波数になることが理想です。 
現実は、高周波に向かってゲインは落ちていきますが、ゲインが 1 になるところの周波数を遮断周波数 (transision frequency) と呼び、FT という記号で表します。
1960 年代末にはじめて出てきたモノリシックのオペアンプでは 100kHz 程度しかありませんでした。  今では数 100MHz のものが安価に入手できます。

ところで、2つほどおもしろいことをお話しします。
一つはゲインが落ち始める周波数です。 仮に FT が 3MHz で DC Gain が 80dB であったとします。 また 3MHz に向かって 6dB/oct. で降下するとしますと、80dB から降下を始める周波数は 300Hz になります。 実に低い周波数ですね。 (右図)

もう一つですが、降下するカーブが 6dB/oct. であるかどうかです。  もしゲインが 1 に下がるまで 6dB/oct. であると、位相の回転はそこまでずっと 90°のままで安定ですから、 仮に出力端子を - 入力につなぐ様な Unity Gain で使用しても発振しません。  各社ともこれを確保するように努力しています。  しかし、FT を伸ばすことを目標にすることと両立しないことが多く、 型番を変えてどちらかに妥協した製品を別々に出す場合もあります。

Slew Rate:
十分速い立ち上がりのステップで、出力が飽和する程度に大きな電圧を入力に与えたとき、出力電圧の波形が急激に上昇 (あるいは下降)しますが、その傾斜の程度を表す用語です。
単位は V/s になりますが、よく使われるのは V/us になります。
理想的には無限大になります。

右図は LM324 をインバートしてほぼサチらせたときのものですが、スルーレイトは 0.2V/us 程度になっています。  当然この傾斜より速い信号は取り扱えません。

一般的には高周波特性の良いほどスルーレイトは大きくなる傾向がありますが、必ずしも比例はしません。
この傾斜を律速しているのはオペアンプ内部の一番増幅率の高い段(多分2段目)のミラー容量の場合がほとんどです。  このミラー容量と前段の出力抵抗とで積分回路を形成し、大きい入力に対しては指数関数の上昇波形ではなく、直線的な上昇を示します。 入力をサインカーブにし、周波数を上げながら与えていくと、傾斜が急な部分が追随しなくなって三角波の様な出力になっていきます。(右図)

測定条件として、出力端にある程度の負荷容量をつなぐ場合もあります。

入力オフセット電圧:
2つの入力端子を動作領域内に置いて出力電圧を観察し、2つの入力電圧を接近させていくと出力が反転する場所があります。  その時の2入力端子の電位差を入力オフセット電圧といいます。 
理想的にはゼロであるべきです。 実際には数ミリボルトからサブミリボルトの程度になっています。  概念的には、2端子が同じ電圧なら出力電圧はゼロであるべきだ、ということです。

装置側の要求としてはこの値が厳しく求められる場合があり、オフセットを調整する外部回路を入れたり、 その目的の端子が出ていてそこにポテンシオメータを入れて調整する場合が多くあります。

入力オフセット電圧温度依存性:
オフセット電圧は初段の差動増幅を形成している2つのトランジスタがどれほど同じ特性を持っているかで決まります。
全く同じと言うことは工業製品である以上あり得ません。 当然温度特性も異なります。
ユーザとしては理想的には温度が変わっても変化しないことを望むわけです。

入力バイアス電流:
2つの入力端子それぞれに流れ込む直流電流分を入力バイアス電流といいます。  流れ出るときは符号を負(-)にして表記します。
当然理想的にはゼロでなければなりません。  でないと外部回路の設計が面倒になりますし、演算に誤差が入ってきます。
右図では入出力伝達関数は -Z2/Z1 という単純な式になりますが、これは入力バイアス電流がゼロであり、かつゲインが無限大であることを仮定しています。

初段がバイポーラトランジスタを採用しているオペアンプですと、20nA-500nA 程度のバイアス電流が流れるのが普通です。  PNP を使っていると負の値になります。
J-FET の入力デバイスを使ったものですと pA オーダになりますので、小さい値を要求する回路では盛んに使われます。

入力バイアス電流温度依存性:
もちろん温度によって変化するのは困りものですので、理想論としては変化量はゼロであるべきです。
実際には、バイポーラ入力素子の時は、温度が上がると若干 hFE が上がりますので、バイアス電流(の絶対値)は下がる傾向があります。 たいした変化ではありません。

J-FET 入力素子の時は大いに問題となります。 PN 接合の逆方向で電流を阻止しているのですが、これは温度が上がるとシリコンの場合はおよそ 4.5K 毎に倍になっていきます。 右図はポピュラーな TL071 のグラフですが、約 4.3K で倍になっているのがわかります。  (低いところで水平になっているのは測定限界のせいです)
ユーザとしては、もともと少ないことを求めて採用していることが多いため、高温で大きくなることを織り込んだ設計をすることが重要です。  ただ単大きくなるというだけでなく、個体差やロット差が大きいですから、最大となる値を事前に調査してください。  下のテーブルは同じく TL071 ですが、Typical で 65pA、Max で 200pA と大きくばらつきます。 70℃ では最大 7nA までのものも混じります。


出力電流あるいは負荷抵抗:
オペアンプは負荷をドライブできなくてないけません。
理想的にはどんな低い値の抵抗負荷であったも駆動できるべきですが、とてつもなく大きなパワーアンプになってしまいますからそこそこで妥協します。  回路設計者側からの要求もありますので折り合いをつけます。

まあ消費電力の小さいもので 2mA 程度、大きいもので 30mA 程度の電流のものが容易に入手できます。  電流を与える方向と、吸い込む方向と同じ程度の量になっています。

逆に、短絡したままほっておかれると終段のトランジスタが破壊しますので、保護回路が必要です。  たいてい組み込まれていますが、後日その例を解説します。

同相信号除去比 CMRR:
Common mode rejection ratio の略です。 2つの入力に全く同じ電圧変化を与えたとき、出力の電圧がどれだけ振れるかを評価する尺度になります。  単位は電圧の比ですが、一般的には dB で表します。
もちろん振れてはいけませんので、理想的にはマイナスの無限大です。

実際には良くできていて、 -80dB 程度はざらに達成できていますから、普通の使い方をしている限りそれほど気にする必要はありません。

電源電圧除去比: Supply voltage rejection ratio, Power supply rejection ratio
CMRR と同様に、電源電圧を変動させたときに、出力電圧がどれほど振れるかを評価するパラメータです。  理想はマイナスの無限大です

実際の値は CMRR と同程度が実現されています。

電源電圧利用率:
仕様書の上では明確な言葉で述べられていないことが多いのですが、グラフなどからなんとか読みとることを行います。  理想は上下の電源電圧まで利用できることです。
出力電圧が、どれほど上下の電源に近いところまで振ることができるかという評価です。  近づくにつれて最大出力電流や CMRR などの特性が悪くなっていきますので、自分の設計に要求するパラメータをしっかり掴んだ上で電源から離れていなければならない量をグラフから読みとります。
Rail-to-rail を謳ったオペアンプではかなり近いところまで接近できます。  rail-to-rail というのは、上の電源ラインと下の電源ラインをそれぞれレイルになぞらえている呼び方です。

入力端子についても同様に評価してください。 近づくと、初段のトランジスタの動作が設計時の想定外になってしまって動作しなくなります。
単電源のオペアンプでは PNP のダーリントンを使うことによって入力を本当に下側の電源電圧まで振っても動作するものがあります。

スイッチング歪み:
オペアンプの終段は B-class の SEPP であることが多いのですが、そのバイアスがカットオフ側に大きくずれているものがあります。  これは負荷がいつも電流を流しておくことを想定しているものとか、歪みを問題視しないような使い方をするオペアンプによく見られます。

右の図は LM324 の出力を中間で負荷電流がゼロになるような使い方をしたもので、三角波を入れてみました。 LM324 の終段は PNP と NPN のベース同士がバイアスなしで直接つながっており、1.6V ほど無感帯が存在します。  その結果そこで出力インピーダンスが上がり、負荷を駆動することができなくて直線でない部分ができるのです。  もちろん、こんなことは理想としては有ってはならないことです。

右の図は TI の仕様書から拝借した LM324 の終段の等価回路ですが、緑の丸が SEPP です。  ベース同士がつながれていて、C 級バイアスの状態になっています。

LM324 は単電源使用ができるように特化したオペアンプですので、このときは出力端子からかなり低い抵抗で下のレイル(グラウンド)に落としてやるか、 負荷を出力端子と下のレイルの間で使うようなアプリケーションを考えます。  そうすると SEPP の下側の PNP トランジスタを使用しない状態になります。  こうして歪みを回避でき、かつ出力電圧として下のレイルまで使うことができます。


[関連記事]
Op-Amp その2 - 現実の特性
Op-Amp その3 - 内部回路例

[参考文献]
Op Amp Application Handbook、Analog Devices, Inc. By Walt Jung


[余談]
私が初めてアナログ計算機に触れたときはまだオペアンプというものはありませんでした。
(アナログ計算機なんて知らない人がほとんどでしょうね)
1960 年代の半ばから Bar Brown が一連のハイブリッドオペアンプを出し始めて、「こんな便利なものがあるのか」 と感じ入ったのを覚えています。  しかし、非常に高価で、民生機器に使えるような代物ではありませんでした。

Analog Devices が出した 741 (注:下記)というオペアンプが大ヒットして一般にも使うようになったのは 70 年代に入ってからです。  オペアンプというと 741 で代表されるものでした。  そのころ、日本でも 741 の前身である 709 を模した μPC55A (NEC) というオペアンプが出まわって、工業製品に使われています。

私も自分の設計する製品に使えないか評価してみましたが、出力電流が取れなくて、また価格が高くて使いませんでした。
Fairchild から出た オーディオ用のオペアンプもどきを評価したときは、長時間の耐久テストでアウトになってしまうなど、まだまだ信頼性で改良の余地のある時代でした。


(注) 読者の方からの指摘がありましたので修正します。 
741 は Fairchild が出したものが最初だそうです。
その他オペアンプに関する URL をお教えいただいています:
(引用開始)
オペアンプ・モジュールはこの「K2-W」が最初です.
    http://dcoward.best.vwh.net/analog/
オペアンプの歴史については,この本が詳しいです.
    http://www.cqpub.co.jp/hanbai/books/36/36101.htm
ただし,最初のIC化オペアンプとしてμA702(フェアチャイルド)が載っていますが,実際にはSL701(プレッシー)だそうです.
(引用ここまで)