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疑似の差動増幅回路に注意



オペアンプで整流回路」の記事の中で右のような差動回路は注意が必要であると書いておきました。

ほとんどの場合はその問題は顕在化しませんが、信号源の回路によっては見えてくるときがあります。 前回の回路でも誤差が出ますので、ちょっと解説しておきます。

予備の練習をしましょう。 下のように r1、r2 の内部抵抗をもった 2 つの信号源からドライブしてみます。
V1 から Vout までの伝達関数 G1 と、 V2 からの伝達関数 G2 はそれぞれ次の式になります。

 G1 = R / (r1 + 2*R) * (r2 + 2*R) / (r2 + R)  ...(1)
 G2 = - R / (r2 + R)    .... (2)

もし r1 が r2 に等しければこの2つの式は、極性が逆で同じ量になりますから問題はありません。

問題は
    1. r1 と r2 はいつも同じとはかぎらない。
    2. 上下の R の差はそのまま CMRR の悪化に直結する
という点にあります。 今回は1番の方について議論します。

前回の回路を詳しく見てみましょう。 右の図です。
Vb から左を見た直流の信号源抵抗を Rs-B とします。 同様に Va 点から左を見たときの信号源抵抗を Rs-A とします。 (2) 式は相手方の r1 の影響を受けていません。 (1) 式の方は相手の r2 の影響が現れます。 ですから、Rs-B に特別に注目します。

一般的な小信号のシリコンスイッチングダイオード 1S953 の電圧電流特性を 1uA から 100mA まで実測しました。 そのグラフの一部は ==>この ページでご紹介しています。 
その数値から、ダイオードの一般式
      V = (λ*k*T)/q * ln { (J+Js)/Js }
の Js と λを割り出し、その式から順方向電流対微分抵抗と直流抵抗を計算すると、右のグラフのようになります。

これを回路の中の Db と Da に適用します。 今回は電圧の量を見ますから直流抵抗 DC-R (ピンクの線)の方です。

下のグラフを見てください。 OP1 の裸ゲイン A0 を 100 と仮定したときの Db の 抵抗 と、 470//4.7k の2要素で合成される信号源抵抗 Rs-B を、茶色の太線で書いてあります。  NFB がありますから、ON 側では抵抗値はぐんと下がって(ほぼ A0/2 分の 1 )います。 逆方向になったときは周りの抵抗、主として 470Ω で決まる値まで上昇します。

茶色の細い線は NFB が無いと仮定したときの線です。 高い周波数でゲインが落ちてきたときはこの細線と太線との中間になります。 (接合容量やリカバリタイムは無視します)

そうです、入力の半サイクル毎に r2 が振れているのです。 ジャーン!!

r1 の方も 180 度動かして同じ形状になります。

そのことをふまえて、Vout を計算で求めてみますと左の図のようになります。 細い線は本来あるべき値で、太い線が r1、r2 の影響を受けた線です。
入力電圧が負になっている期間である、オレンジの方に誤差が現れます。 
(S/B は should be (あるべき値)の略)


誤差の量を拡大してみると左のようになります。
A0 を小さくして 10 位にしてみると青い線の方にも若干の誤差が現れます。
ですから、誤差は周波数にも依存することが分かります。

ついでですが、誤差をパーセンテージで表すと、低い電圧の時の方が大きくなります。(グラフはたくさんになるから省略します)
A0 を 100 に戻して、R4 を 5.1k にすると左のようになります。 だいぶ補正されました。

よって、フルスケールの電圧がいくらであるか、ねらいの周波数(=オペアンプの裸ゲイン)はいくらであるか、などを見て R4 を加減して合わせ込むわけです。

そういう面倒なことをしたくないときは、信号源抵抗の影響を受けない回路にします。
単純には、単に +1 のバッファをかませてもいいでしょうが、次の回路の方がスマートです。

この回路はインスツルメンテーションアンプ (Instrumentation Amp) と呼ばれるもので、入力インピーダンスが高く取れますし、かなり精密に差動増幅してくれます。  もちろん4つの R は合っていないといけませんが、1段目のオペアンプが効果を発揮します。
1段目で、2つの入力の同相信号は増幅率が 1 ですが、差動信号は (2*R2+R1)/R1 になりますから、大きく取ることができます。  おまけに同相信号は2段目でキャンセルできます。 うまくできていますね。
もし、センサに行く線にガードがほしいときは、R1 を2つに分けて、その中間点から +1 のバッファを通して供給してやるといいでしょう。  ブートストラップを使ったガード電極です。




[おまけ]
右の回路も差動増幅です。 ちょっとやってみましょうか。
オペアンプは理想的であるとすると、上側の R2 に流れる電流と R1 に流れる電流が同じです。 同様に下側の R1、R2 の電流もそうです。  e4=e1 で e6=e2 ですから、
      (e3 - e1) / R2 = (e1 - e5) / R1
      (e5 - e2) / R1 = e2 / R2
です。 この2つの式から e5 を消去しますと e3 が e1、e2 の関数として表されます。 で、
     e3 / (e1 - e2) = 1 + R2 / R1
となって出力電圧は e1 と e2 の差に比例することがわかります。
但しこの回路では2組の抵抗が精密に合っていないと CMRR は悪くなります。
また、e1 からはオペアンプを1つしか通りませんが、 e2 からは2つ通りますので、高い周波数で位相が異なってきて完全な差動ではなくなります。
非対称性が見られますので、低い周波数で、オペアンプを節約したいときだけに限定して使うことをお勧めします。


[反省]
信号源抵抗 Rs の変動を見るためにダイオードの順方向の直流抵抗を測定して計算に用いました。 考えてみれば、 A0 = ∞ として、順方向では r = 0、逆方向では r = ∞ と見なして信号源抵抗を計算しても誤差の大半は説明できます。 割鶏焉用牛刀を行った様な気がして反省しております。


[追加情報]
Forum に読者の方からもっとくわしい==>経験談をお寄せいただきました。  添付されている図も併せて是非お読みください。