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B 級アンプのバイアスの安定化


音声や SSB などの、振幅が変動する信号を歪みを少なく増幅し、かつ電源効率を良くする時には B 級のバイアスを使います。
(最近は、 PWM を使ってさらに効率を良くしようとすることもありますが、そのときはかなりの問題も抱え込みます。)

この B 級というのは、無信号時はトランジスタをほとんどカットオフの状態に置き、信号が来たときだけアクティブにし、 かつ上下の半サイクルを別々のトランジスタで受け持って、プッシュプルで送り出してやろう、という仕掛けです。
「ほとんどカットオフ」 といっても、トランジスタのバイアスは温度変化に気を遣わねばなりません。  とくにベースエミッタ間は、5mV も動くと異なったバイアス位置になりますから、クリチカルです。  以前の記事でも述べましたように、250mV の変化は覚悟しておかねばならないというのに、5mV を何とか管理するわけです。

ここに難しさがあります。

B 級アンプはプッシュプルの構成をするのにトランスを使うこともありますが、ここではコンプリメンタリのトランジスタを2組使って、SEPP (Single Ended Pushpull) の回路で説明します。 図1です。 クリチカルさを見るために具体的な数字を入れてみました。
ダーリントンは3段にするときもありますが、ここでは2段で説明します。

バイアスは Q2Q4 で無信号時に 25mA としてみましょう。 (50mA でもいいのですが)  Q2 のエミッタの 0.5 Ωはバイアス安定化の抵抗です。 大きくすると安定度が上がりますが、電源利用率が下がりますから、ほどほどで妥協します。
25mA で 12.5mV の電圧が得られます。 これが安定化の原資です。 仮に、Q1 と Q2 の温度が1度上がったとき、ほかの条件が全く変わらなかったとしますとどうなるでしょうか。 ベース・エミッタ間の電圧は PN 接合ですから、2つで約 4.5mV 小さくなります。 これはそのまま 0.5 Ωの両端の増加になりますから、 12.5mV は 17mV に増え、25mA だったバイアスは、34mA になります。 まあ許せる範囲ですが、気になりますね。 たった1度上昇の結果です。

それで、Q1 のベースと Q3 のベースの間に与える電圧を、温度が上がると低下させるように補償します。  D1 - D4 がその役割を担っています。 これも PN 接合ですから、うまく実装すると良い補償になるでしょう。
1度の差程度で納めたいのですが、いくつか問題があります。


1.
Q1、2、3、4、は異なった場所にありますから、放熱条件も違います。 それぞれ別の温度になっています。
ということは、D1 - 4 は別々に相手のトランジスタと熱結合させる必要があります。  ここはインピーダンスの高いノードですから、浮遊容量を少なくしたいのですが、4つをバラバラに配置し、それを金属の近くに置くのですからいやな感じですね。  でもしようがないでしょう。 やることにします。  D1 は Q1 にくっつけます。 Q2、3、4 も以下同様です。

2.
では、熱結合はうまくやれるでしょうか。 例えば図2で Q2 と D2 を考えてみます。
熱は、電圧降下の大きいコレクタ・ベース間の接合で発生します。 ベース・エミッタ接合はそれにくっついていますから、リアルタイムで伝わります。 ところが、ダイオードはほとんどの場合外付けで、もっとも接近した場合でも、コレクタの放熱板が出てきた位置になるでしょう。 
おまけにヒートシンクが並列に入っています。 ですから、温度の差がありますし、時間遅れも発生します。
くやしいですが、やむを得ないですね。 ですから、半導体チップから熱伝導的に最短の位置にできるだけ熱を受けやすい構造でダイオードを貼り付けます。

3.
補償のダイオードと、トランジスタの B-E ジャンクションは等価でしょうか?
シリコンの PN 接合のものを使いますと、温度変化による電圧変化はどれでも接近したものになります。
しかし、動作点はそれぞれ異なります。  図3に例を示します。 パワートランジスタは最大電流 8A のもので、ドライバのトランジスタは 800mA のものです。 赤い丸を4つ書いておきましたが、一番左にある A がパワートランジスタの BE 電圧です。 パワートランジスタでは大きなチップですから、電流密度が小さく、軽い動作点です。 温度は 21度Cで測りました。
ドライバの Q1 はそれほど大きなチップは使いませんので、もう少し高く B になります。
補償のダイオードはシリコンの PN であれば何でも良いのですが、手元に山ほどある 1S953 を測ってみました。 7mA はかなり重い電流で、一番右 C になります。
(グラフは他の目的のものを借用したので赤と黄の線は無視してください)

そうすると、0.5 Ωでの電圧と、これらの電圧差を積み上げると、マッチしません。 
トランジスタ側: 0.0125+0.58+0.625=1.22
ダイオード側: 0.67*2=1.34
Ra がゼロでもダイオードの方がかなり高いので終段電流はとんでもなく大きくなってしまいます。
どうしましょうか。
ダイオードを3つにしてしまうのはいけません。 補償が足らなくなります。

2つ方法があります。
1つは、ダイオードのチップ面積の大きいものを使って電流密度を下げることです。 ダイオードが大きくなって、熱結合がやや不利になりますがやむを得ません。
なお、高周波特性は必要ありませんので電源の 2A ほどの整流ダイオードを使うという手があります。  手元のダイオードで測ってみましたが、7mA で 605mV でした(赤丸の D )のでちょうど手頃です。 Ra を少し入れるとうまく調整できるでしょう。
もう一つはトランジスタでベース・エミッタ間電圧の2倍より少し小さい値を発生させることです。(図4)
10k と 10.5k の比を変えるとコレクタ・エミッタ間電圧が動きます。 この欠点は、バイアス量が変わると同時に、変化分も同率で変わってしまうことです。  まあ妥協できるかどうか、微妙なところです。
また、1対1の補償ができなくて、パワートランジスタ2つ分を補償トランジスタ1つで受け持ちますから、正確な補償ができません。  せいぜい Q2Q4 の熱結合もちゃんとやります。 Q1Q3 も同様です。

これらの数値は、手元にあった適当と思われるトランジスタやダイオードの実測値です。  動作点もこうなるであろうという点を選んでいます。  実際に設計するときはそのとき採用したトランジスタにあわせたやり方を工夫しなければならないのは当然です。