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スピーカの電流駆動


ひとつ前の記事で、電流駆動ではスピーカをダンプできないと書きました。  それが何を意味するか、もうちょっと詳しく見てみます。
前回使用したスピーカの中心から 1.5cm 離した位置にコンデンサマイクを置き、5.5Hz の幅の広いパルスを与えてスピーカの過渡応答を見ます。

電圧駆動
まず電圧駆動時ですが、アンプの出力インピーダンスとケーブルの抵抗分で 0.6Ω 程度で駆動してみます。 右の図で、黄色がアンプ出力端子電圧、緑がピックアップマイク出力です。
f0 の音が 2 波程度残りますが、コツコツという感じの音です。
(パルスにサグがあるのはスコープを AC カップルにしているためです。)

電流駆動
次に、直列に 680Ω の抵抗を入れて電流駆動にしてみます。 f0 の振動がいつまでも続くのが分かります。


これら2つの音を WAV で録音しています。
電圧駆動時の音です。  ==>
電流駆動時の音です。  ==>
電流駆動だと、ダンピングされていなくて、ポコポコというそのスピーカの f0 の共振音がします。

測定の環境を作らなくても、スピーカ単体に耳を近づけてコーンを指ではじいても分かります。  端子を開放したときと、ショートしたときの両方で試してみてください。


右の図はバッハの「トッカータとフーガ BWV565」の出だし2秒間の波形とフーリエ変換したスペクトルです。 まるでノイズ波形そのものです。  (波形の横軸は 200ms/d、スペクトルは 250Hz のスパンで、中央が 125Hz、縦軸は 10dB/d)
人の聞く音というのは、サインカーブの純音ではなく、時々刻々変化する波形です。  たとえば 200Hz 以上の音しかなくても、変化分まで含むと DC に近い周波数のスペクトルも含んでいます。  従って、スピーカは常に f0 付近(赤い丸印)をドライブされていることになります。
その共振をうまくダンプしてやらねば余分の音が出ていることになるのです。

ダンピングはスピーカのボイスコイルからアンプ側を見たインピーダンスがどれだけ低いかによって決まります。  それで、ボイスコイルの定格インピーダンスの、アンプ側を見たインピーダンスに対する比を「ダンピングファクタ(DF)」と呼ぶことにします。
DFを決定する要因は以下のものです:
    1.アンプの出力インピーダンス
    2.スピーカケーブルの往復のレジスタンス
    3.(あれば)フィルタの L のレジスタンス
    4.(あれば)フィルタの L のリアクタンス
    5.(あれば)フィルタの C のリアクタンス
    6.(あれば)アッテネータのインピーダンス

よく、アンプの定格で DF が記述されていますが、それは上の1だけですので実際の使用環境は異なります。
では、具体的な話として、どの程度のインピーダンスで駆動すればいいのでしょうか。  答えとしては、DF を 10 程度以上にすればいいでしょう。  100 などの極端な値にしてもあまり改善にはつながりません。 
そもそもケーブルの抵抗がかなり大きいですから、その辺りから攻めていけばいいでしょう。  10m のスピーカラインの抵抗は、往復 20m で次の通りです。
  断面積 0.3mm^2 の線.... 1.17Ω
  断面積 0.5mm^2 の線.... 0.68Ω
  断面積 1.25mm^2 の線.... 0.28Ω
  断面積 2.0mm^2 の線.... 0.19Ω

4Ωのスピーカで、アンプの出力で DF が 100 あったとして、0.5mm^2 の線を使ったら 10m (往復20m) で 5.5 まで落ちます。  2mm^2 なら 17 です。
もちろんウーファに使うネットワークの L の銅線の抵抗も大きく効きます。

接続部のねじ締めも大切です。 とくにクロームメッキをしたスピーカ端子に注意してください。  クロームは堅いので点接触になりがちです。  接触抵抗が高くなるのですが、実はそれ以外にも問題があって、酸化被膜によって接触点がもちあがり (酸素を取り込んで体積が大きくなる)、気密状態でなくなる結果さらに接触不良が進みます。  この抵抗は非直線なので、歪みを持ち込みます。  昔のかなり立派なスピーカキャビネットに使われていたことがあり、音が歪んでいて気が付きました。  半年に一度はねじの増し締めをやっていました。


スピーカを電流駆動するときは次の2つのことに注意してください。

1. f0 付近での音量が非常に大きくなります。  上に書いたように、余分の振動が起きることに加え、インピーダンスが高くなるにもかかわらず、一定の電流を流し込もうとすることがもう一つの原因です。  消費される電力は I^2*R で決まりますが、 R が大きくなりますからどんどん大きな電力がほうりこまれます。
スピーカの特性は定電圧で測定されたものが仕様として渡されていますが、それとは全く異なった特性で再生されることになります。
2. アンプの出力電圧が足らなくて、クリップしてしまうことがあります。  アンプは定電流を流すべく努力をするわけですから、インピーダンスが高くなると、高い電圧を供給しなければなりません。  E=I*Z です。  そうすると、 f0 付近でインピーダンスが例えば 80 Ωになったとしますと、中域で 1W (8Ωで0.35Arms、2.8Vrms)出しているつもりでも、 f0 付近のスペクトルに対しては同じ 0.35A で 28Vrms になります。  ピークはその数倍になりますから、アンプの電源電圧はSEPPの場合を例に取ると最低でも +60V、-60V ほど必要です。 




[注]
負荷のインピーダンスに比較して十分高い抵抗を入れた定電圧信号源は、とてもいい定電流信号源を近似してくれます。  上記の定電流源に代用したものは 680Ω を信号源抵抗とする信号源になっています。
ただし、一つだけ注意することがあります。  それは信号源が発する電圧がほとんど内部抵抗にかかってしまって、負荷まで届きにくいことです。  なので、とても高い電圧を出せるようにしておく必要があります。  今回は大きな電力(つまり高い電圧)を出すことのできるパワーアンプを使って、飽和していないことを確認しながら作業しました。