スピーカのインピーダンスとは

ダイナミックスピーカ(Electrodynamic Transducer)のインピーダンスと共振など、基本的なところを押さえておきます。 8Ω のスピーカはいつも 8Ω ではありません。 また、電圧駆動時と電流駆動時では f0 が異なります。
電流駆動時にはダンピングが効かないためそのスピーカ特有の f0 がひどく強調された音になります。
右の図は手元にあった典型的なスピーカのインピーダンスを周波数を変えながら実測したものです。 測定は電圧駆動に近い状態で行い、図の V1 と V2 の比からスピーカのインピーダンスの絶対値を計算しました。 本来の仕様書の特性を測るには無限大バッフルに装着すべきなのですが、基本特性を概説するだけですのでバッフル無しの状態です。
f0 と呼ばれる機械的な共振点があります。 ここよりずっと下の周波数では、前面で圧縮された空気は後面に回り込んでいます。 コーンはピストン運動はしていますが少し離れると音のレベルはがくんと落ち込み、放射効率は下がります。
f0 付近の動作では、コーン前後の空気のマスや圧縮反発力や粘性と、コーンやボイスコイルなどのマスと、エッジやスパイダのバネ効果や損失と、
ボイスコイルが発電する電流によるダンピング、がすべて絡んできて、きれいな「損失を持った機械共振系」を形作ります。
インピーダンス側から見ると、共振系が同位相で発電してくる電圧分だけ電流が流れなくなり、軽い力で動かすことができ、
インピーダンスが高くなります。もう少し高い周波数になると、ピストン運動でコーンは効率よく空気を押し、圧力波を生み出します。
f0 より上で、最初にインピーダンスが極小になる時の値をもって、スピーカの定格インピーダンスとしています。 ボイスコイルの直流抵抗(この DUT では 7.8Ω)とほぼ同じになります。
もっと高い周波数になると、コーンが空気の慣性質量に耐えきれずに腰砕けになったり、また、 コーン上の力の伝搬速度が(その周波数に比して)遅くなる結果全面が一体として空気を押すことができなくなって、 いわゆる分割振動のモードに入ります。 インピーダンスで見ていると少しずつ高くなり、波打つようになります。 (上のグラフは分解能が無いため波打ってはいません)

このスピーカを電流駆動してみるとどうなるでしょうか。
信号源のインピーダンスを 680Ω にしてドライブしてみました。 正確には定電流とは言えないですが、8Ω に比べて十分高い抵抗ですので非常に良い近似になります。
結果をインピーダンスで見ているとそれほどの違いは見えません。
しかし詳しく見てみると f0 の位置がわずかに異なっています。 (後述)
正確な周波数がほしいときは、周波数をスイープしていきますと f0 の頂上では V1 と V2 の位相が同じになるのでリサージュで見つけることができます。
(右図)
大学で機械工学を習った人には常識ですが、機械共振系に速度に比例する制動がかかると、共振点はわずかに低い方に移動します。電圧駆動のときのダンピングはまさにその典型です。 ボイスコイルが動くとその速度に応じて発電し、駆動源(アンプ)のインピーダンスが低いので、その発電による電流はそのままボイスコイルを逆方向に駆動しますのでダンプされます。 電流駆動と比べてみたのが右のグラフですが、f0 がわずかに低くなっています。 電流駆動で 158.2Hz、電圧駆動で 155.8Hz でした。
普通、この程度の f0 なら 4Hz 位の差があります。
メーカーによってどちらの f0 を使うかは異なりますが、わずかですからあまり問題にはされません。
(長い間使わなかったスピーカを鳴らしているとエッジとスパイダが柔らかくなってわずかに
f0 が高くなっていきますので、測定には苦労しました。
30分ほど鳴らして、駆動モードを行ったり来たりして、戻ってきても変わらないことを確かめて測定しました。
また、電圧駆動のピークの高さはやや低く測定されています。 これは原信号が歪みを持っていて、2次高調波の電圧が V1 に漏れてくるためです。)
さて、スピーカのインピーダンスはいつも 8Ω とか 16Ωでないことが分かりました。
ちょっと回路で等価になるようなトポロジと値を考えてみました。 右の緑の枠内のようなものです。
(分割振動まで入れていません) その周波数特性をグラフにしています。考えてみると、次のような疑問が浮かんできます。
2Way スピーカで、L と C を使ってフィルタネットワークを作り、アンプとスピーカの間に入れるとします。 このとき、フィルタの負荷インピーダンスが定まらないと L や C の値を決定できません。 実際には、エイヤッと 8Ω などの定格インピーダンスで設計してしまいます。 図中の 39.8u は 8Ω なら 500Hz のカットオフになります。

ところが、上で見たように、インピーダンスは大きく変化しています。 しかも、上では詳しく述べませんでしたが、それは複素数なのです。 何が起きるでしょうね?
実験に使ったスピーカは 8cm と小さいので、これを高域を受け持つスピーカにしてみます。 f0 まわりではインピーダンスが高くなって、その周波数は C では切れていません。 またスピーカからアンプ側を見ますと、C の向こうにアンプがありますから、この f0 の共振はあまりダンプされないことにもなります。 右の2つのグラフはそれらを物語っています。
(注:非常に高い周波数を扱うツイータでは f0 でのインピーダンスの持ち上がりは2倍程度に収まるのでこのグラフほどひどくはなりません。 ミッドレンジの場合は 4~6 倍ほどになるのでこのグラフと似た現象になります。)
まだまだ他にもたくさんの複雑な事情を抱え込むことになりそうですね。。。。。。
まとめ:
- 定格インピーダンスとは f0 のちょっと上でのインピーダンスのこと。
- f0 では高いインピーダンスを示す。 ずっと上ではバタつく。
- L、C でスピーカの受け持ち周波数を分けることが現実には多く行われているが
正しい事かどうかは疑問。
- 電圧駆動では、電流駆動に対し f0 は低くなる。

[余談]
スピーカ端子に+-の記号か赤黒の色分けがしてあります。 これは+端子に直流の+電圧を加えたとき、振動板が前方(聴取者側)へ移動することを表しています。
アンプからの接続時には、ステレオの2つのスピーカは同じ極性につながないと音がおかしくなります。 具体的には、モノラルの人の声を両スピーカに加え、中央付近に頭を持っていくと、その音声は2つのスピーカの中央一点にきれいに定位します。 逆につないであると非常におかしな音になり、定位しません。 頭を少し動かしただけでも気分が悪くなる感じです。
音源はサイン波ではうまくいきません。
ちょっとおもしろい話を思い出しました。
セパレートアンプを設計して試聴したときのことでした。 小さなホール形式の試聴室で、6台のアンプをかなり高価なスピーカシステムに接続し音を出しました。 ところが、どうしても定位に納得ができませんでした。
接続を再確認しても正しくなっています。 そこで、ウーファから順に試験してゆくと、ミッドレンジ(スコーカ)がおかしいことを見つけました。 スピーカボックスの箱を開けてみましたがOKです。 (高価なホーン型のスコーカユニットです) スピーカユニットを別のものをもってきていくつか組み合わせて聴いてみると、1つだけ極性が違うことを発見しました。 ユニットの製造上の間違いだったのです。
[コメント]
読者の方からコメントをいただいています。 ==> ここ
ツイータの場合は機械的なダンプが効いているので、f0 でのインピーダンスの持ち上がりは2倍程度に収まる、ということです。
確かにそうですのでここにその情報を追加しておきます。
振動系の質量とそれを支える機構は、ウーファのそれをただ縮小したものではなく、質量が少なくなる方が効いてきます。 したがって抵抗分が勝って制動が強くなります。
駆動側でのダンピングの必要性も、ウーファほど神経質にやる必要は薄くなります。
ミッドレンジ(スコーカ)の場合はウーファとツイータの中間的な特性となります。
[コメント2、 追記 4/20/2008]
ダンプしたときに fo が移動する件に関して考察しました。
いま、単振動系があって、質点の質量が m 、変位 x に対して復元力が kx 、速度に比例する制動力が h*dx/dt であるとします。 k も h も正の定数です。 制動力は動摩擦によるものや、上記のように発電による逆方向電流での制動がそれに当たります。 運動方程式は次のような二階の微分方程式になります。
d^2 x dx
m ------ = - kx - h ----
dt^2 dt
m ------ = - kx - h ----
dt^2 dt
これを整理して λ=h/(2m)、 ω=sqrt(k/m) と置いて変形すると、
d^2 x dx
------ + 2 λ ---- + ω^2 x = 0
dt^2 dt
------ + 2 λ ---- + ω^2 x = 0
dt^2 dt
さらに x=y*e^(-λt) なる新しい変数 y を導入すると、上の基本方程式は次のようになります。
d^2 y
------ + ( ω^2 - λ^2 ) y = 0
dt^2
------ + ( ω^2 - λ^2 ) y = 0
dt^2
これを解いて得られる y を元の x=y*e^(-λt) に代入すると x が t の関数となって表現されます。 いま上記の例ではアンダーダンプですのでそのときの場合 (λ<ω) について解くと、初期値を振幅 A0 時刻 0 として、
x = A sin (sqrt(ω^2 - λ^2 ) t) ただし A=A0*e(-λt)
.....(1)
となります。 これは振幅 A が時間とともに指数関数的に減少するサイン関数の振動を表します。
その固有周波数 f0 はf0 = sqrt(ω^2-λ^2)/(2π) (Hz)
となって、λがある分だけ低くなります。 この f0 を「減衰振動固有周波数」と呼びます。
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右のグラフは (1) 式で、 λ が ω の 3% の時と 20% の時の振動の様子を描いたものです。 わかりやすいように初期値を 90°から始めました。 ω は上で使ったスピーカを電流駆動したときの f0 158.2Hz を 3% ダンプしたものと仮定して逆算した 158.3Hz *2 π を使いました。 20% ダンプすると共振周波数は計算上 155.1Hz に落ちます。 3% とか 20% というのは、電流駆動と電圧駆動した時の実際の音圧波形(下の写真は電圧駆動)に近い減衰になるようなλを探した結果です。
この計算された周波数移動量(3.1Hz)は実験の測定結果(2.4Hz)にかなり近い値です。

昔、スピーカー工場で実習していた時の話ですが、ある会議に出席するように指示を受けました。
出てみるとその会議の議題は「スピーカーの f0 の定義を変更する件」でした。 その会社の仕様では、それまで電流駆動して電圧が最大になる点を f0 としていましたが、それを電圧駆動して電流が最小になる点に変更する、というものでした。 後者の方がユーザーの使用環境に近いというのが理由です。
非常に短時間の会議でしたが異論は無くすんなり変更が認められました。
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上田晴彦訳の John R. Taylor の 「古典力学」(ISBN978-4-903814-93-3)の中の 196 ページから 198 ページの内容を要約しておきます。

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抵抗力が存在しない場合の固有角振動数を ω0 とすると、
ω0 = sqrt(k/m)
ここで、m は振動している質点の質量、k はそれを支えているばねの定数。
速度に比例した力 2β が働くとすると、運動方程式は
(dx/dt)^2 + 2β(dx/dt) + ω0^2x = 0
β と ω0 が時間の逆の次元を持つことに注意。
この2次微分方程式を、弱い減衰振動をする領域(β<ω0)で解くこととして
ω1 = sqrt(ω0^2 - β^2)
とおくと、
X(t) = Ae^(-βt)*cos(ω1t-δ)
これは振幅 A で始まり、減衰パラメータが β で、角周波数 ω1 の減衰振動である。
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ω1 は ω0 より小さいことがわかります。
