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スミス・チャートの使用例

前回の記事でご紹介したツールを使って、実際の整合回路を設計してみましょう。 一例として、20Ω の素子/信号源を 1GHz で 50Ω のラインに整合させてみることにします。
ちょっと考えただけでも、おそらく 30 種類以上の整合回路ができるように思いますが、ここでは主に、非常に簡単な 2 つの素子だけを使った例を 10 ばかり取り上げます。 最後のほうに例外的に多素子の例と 1 素子の例を出しておきました。
また、直列にスタブを挟む回路は実現時に問題を起こしそうなので取り上げませんでした。
どの例も 1GHz で整合しますが、周波数を 0.5GHz から 1.5GHz までスイープさせてみますと大きな違いが見えます。 あるものはまるでフィルターのように SWR が ∞ まで行ってしまいます。  もちろん、目的によって帯域が狭いほうがいい時と、広いほうがいい時があります。 スイープの赤いドット間の周波数差は 50MHz です。  Route の図で、最後のプロットの周りにある黒と青(±5%)のプロットの広がりで、およその帯域がわかります。

Case 11、12、14 はぜひ目を通してください。
(注:回路常数の赤枠が3段しかないのはこのページを作成した時点で Ver1.3 だったからです。 上から Device、Value、Z です。)

Circuit / Comment Route 0.5 - 1.5GHz Sweep
 Case 1


0.5 - 1.5GHz 間の SWR 最大値は 3 です。 ごく普通の整合方法です。
 Case 2


SWR 最大値は 17 です。 Case 1 と似た方法ですが、 SWR はずいぶんぶれます。
 Case 3


SWR 最大値は ∞ です。 ノッチフィルターに使えるほどです。 Sc は、短い時は L 性なのですが、無理に伸ばして C の領域まで持ち込みました。 そのせいで周波数の影響が 3 倍は出ています。
 Case 4


SWR 最大値は 10.1 です。 Case 1 の反対の組み合わせですが、帯域はずっと狭くなります。 面白いですね。
 Case 5


SWR 最大値は 13.6 です。 Case 4 と同等の組み合わせですが、帯域はそれより若干悪化します。
 Case 6


SWR 最大値は 2.7 です。 Case 1 とほとんど同じになります。
 Case 7


SWR 最大値は 8 です。 思い切り振りまわしてから戻してみました。 案の定ひどい SWR になりました。
 Case 8


SWR 最大値は 6.5 です。 このように、一度中心の向こう側に振ってから戻ってくる方法は帯域が狭くなります。
 Case 9


SWR 最大値は 5.5 です。 Case 2 や Case 6 と同じような組み合わせです。 両者の中間の結果です。 アンテナの整合でよく見かける方法です。
 Case 10


SWR 最大値は ∞ です。 Case 9 の So を長い Sc で代用すると ∞ の SWR が現れます。
 Case 11


SWR 最大値は 1.9 です。 λ/4 の伝送線で、特性インピーダンスを両側の幾何平均にすると整合する原理です。 マイクロストリップラインでよく使われます。 帯域もそれほど悪くありません。
 Case 12


SWR 最大値は 2.6 です。 2 本の遅延線で、それらの特性インピーダンスを、お互いの反対側の値にして、長さをどちらも λ/13 程度(負荷によって少し異なる)にすると整合する、 という面白い性質を使っています。
各種の資料や講義ノートでしばしば λ/12 と書かれていますが、それは Z 平面と Γ 平面を混同した結果の間違いです。
 Case 13


SWR 最大値は 1.6 で帯域が広く非常に良好です。 多素子で、最後のDLが 40.7Ω と低く、長さも長いので製作がむつかしいですが。
 Case 14


SWR 最大値は 1.7 で Case 13 と同等です。 Case 13 の問題点を、同じラインを使うことで解決し、かつ C ではなく So を使うので全部プリント配線で作ることができます。  これは私の発案です。

技術公開 2017年8月12日
 Case 15


SWR 最大値は 1.1 程度で素晴らしい特性です。 ただし、とても長いラインが必要です。  この方法は Multisection Quarter-Wave Transformer と呼ばれています。  負荷と入力端の距離を長くしてテーパ状でつなぐと調和することを示しています。


LC 4 つを使って広帯域で、かつ 2 つの離れた周波数で完全マッチさせるという離れ業をした方を紹介します。
フォラムの==>これです。


左の図はちょっとお遊びです。 動く保証はありません。 Case14 を実装したものですが、主軸のラインに対してスタブをつなぐ位置では、主軸の磁束を妨げないように 1.4mm だけ 150Ω の細い線を出し、スタブ本体は等価になるように短くしています。 基盤は裏にグラウンド・プレーンのある 0.6mm 厚の PTFE で、0.5OzCu です。  D2 のスタブが長いですが Z を低くすれば短くすることができます。
なんか、スタブの位置や長さにハーモニーが感じられますね。 それを見たくて作図してみました。


[2023.05.17 追加記述]
ちょっと面白いことを思いつきました。 レンズのコーティングです。 これをSmith Chart 上で考察します。
右の図はガラスに光が入るところを模写したものです。 一部は屈折してガラスの中に入り、一部は空間インピーダンスが整合していないので反射されます。
屈折率は 1.47 としてみます。 空気は真空と同じとします。 考察は:
・屈折率からガラス中の光速度を得る。
・速度から(光の周波数領域での)比誘電率を得る。
・比誘電率からガラス中のインピーダンスを得る。
・光の波長から、紫と赤の周波数を計算して、その幾何平均周波数を得る。
・それらのパラメータを使って、 Smith Chart を使ってガラスの表面に4層のコーティングを施して、上記の Case15 (Multisection Quarter-Wave Transformer)の原理で反射を小さくする。 そのコーティング層のあるべき比誘電率と層の厚さを求める。
という考えです。 ここで、層の厚さですが、斜めの入射光では通過する距離が長くなりますから、ちょっと理想的にはなりません。  まあ垂直に入ってる光を考えることにします(少しごまかし(コサイン・エラー)が入るわけ)。 真空のインピーダンスは 376.73Ω とします。
計算するとガラスの比誘電率は 2.16 でした。 ので、インピーダンスは 256.3Ω になります。
周波数は、紫が 4.28e14Hz、赤が 8.57e14Hz なので幾何平均は 6e14Hz です。 これらを Smith Chart Tool に入れてみますと:
  
という条件でガラスと空気とが整合され、右の図のようになります。  整合前の L の位置では S11 が -14.4dB だったので、約2割が反射されていました。

赤から紫までスイープしてみるとこの下の図のようになります。 うまく全域で整合しています。  S11 は悪いところでも -30dB を割っています。 (両面では -24dB)

その結果をもとにコーティング層の比誘電率や実際の厚さを計算しますと次のようになりました。

最初に垂直の入射だけを仮定しましたから、厚さをわずかに薄くしてやると適応角度が広がるかもしれません。  例えば、F=50mm で f=2.8 のフルサイズ用レンズで、3.9% 薄くすると、垂直が犠牲になりますが端の方がずいぶん良くなりそう。
表に書いた屈折率を持つ物質をうまく探し出して、厚さを制御してコートすると、反射が少ないレンズが作れます。
Smith Chart がこんなところでも使えるという例です。

この追加記述を思いついたのは、右のような拡大鏡を買ったときでした。 とてもじゃあないですが、ひどいものです。  ところが、ちゃんとしたコーティングがなされた光学ガラス製の拡大鏡は、どんなに探しても見つかりません。




参照:
1.スミスチャートで整合の方針を立てる
2.スミス・チャート ツール
3.「RFワールド No.49」、CQ 出版株式会社 2020.2.1 発行、pp.96-102




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(8/12/2017)武        

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作者: 藤原 武 Tak Fujiwara