電源ラインのリップル
(ほぼ)すべてのアクティブ素子を使った回路は電源を必要とします。 この電源ラインが、本来の直流電圧以外の成分を含んでいるとろくなことがありません。
こうしたノイズ成分は、電源ラインへ送り出さない方がいいですし、乗ってきたノイズを受けとらない工夫も必要です。 その両方について見てみましょう。
[受け取らない]
やむを得ない事情で、少しは電源にノイズが乗ってしまっているとき、それをできるだけ受け取らないことを考えます。 とくに、信号レベルが低いところで S/N が悪化します。
浮遊容量と絶縁体のもれによる信号ラインへのカップリング:
電源ラインはどこにでも張り巡らされますから、信号の近くにも存在します。 この間で浮遊容量と絶縁抵抗によってノイズの受け渡しが行われます。 間に絶縁物があれば、それは誘電体でもありますから容量は大きくなっており、かなり遠くまで届きます。

受ける方は、どちらの結合であっても、シールドをかませてグラウンドしてやると逃げることができます。 絶縁物の表面を伝わってくる漏れ電流を止めるにも、同じようにガード電極を設けます。
シールドやガード電極によって信号ラインからグラウンドへの静電容量が増えたら困る、と言うときは、2重にして、 信号に近い方の金属体にブートストラップを使って同位相の信号を与えてやるといいでしょう。
また、信号ラインのインピーダンスを下げることができるのならば、そうします。
当然ですが C が小さいときでも、周波数が高くなると漏れは大きくなります。 パルスの立ち上がり・立ち下がりだけが入り込むときがあります。
オペアンプの利用:
一般的なオペアンプでは内部が差動増幅回路になっていますから、低い信号を扱う初段で電源からノイズが入ってきても、2段目でキャンセルされほとんど影響が無くなります。
この効果は「Supply Voltage Rejection」とよばれ、-80dB ほどあるのが一般的です。 ですから、差し支えなければオペアンプを使うことが望まれます。
しかし、非常に低ノイズの増幅器を作りたいときなどは、ディスクリートで作らざるを得ないことがありますね。
コレクタ/ドレインの高いインピーダンス:

右の図で分かるようにコレクタやドレインは、Vcc (Vdd) が変化しても電流はほとんど動きません。 ということは通常のコレクタ負荷抵抗で信号を取り出そうとしている回路では、Vcc が変化すると、その変化分(ノイズ電圧)はそのまま出力に現れるということです。
幸いなことに、大抵の場合コレクタに出てくる信号は増幅された後ですので、S/N はその分だけ影響を受けにくくなっています。
このノイズを避けるにはデカップリングしかないでしょう。

電源ラインに直接電解キャパシタをつないでも、ラインのインピーダンスが低くて負けてしまいますので効果がありません。 ですから、この段だけを分離して直列に抵抗(か、高周波の時はコイル)を入れ、インピーダンスを高くしてからデカップリングキャパシタをかませます。

コレクタ/ドレインから Crss を通してベース/ゲートへの漏れ:
ベースやゲートのインピーダンスが高いときは、Crss によって高い周波数の電圧がここに現れます。
エミッタ接地の時は上に書いたノイズと逆相になりますから問題ではないのですが、エミッタフォロア、(特にソースフォロア)の時は、そのままノイズとして出てきます。
これも上記と同じデカップリングで遮ります。
エミッタフォロア/ソースフォロアの Vcc-:
右の図のようにエミッタフォロア/ソースフォロアに下側の電源から負電圧を与えているときは、そのリップルが若干潜り込みます。

この量は、下側の負荷抵抗と、フォロアの出力インピーダンスの電圧分割なのですが、意外と大きな値です。
試しに計算してみますと、ソースフォロアの出力インピーダンスは 1/gm になりますから、2SK30-GR を 3mA で使ったとして 300Ω ほどになり、 リップルが 10mV で負荷が 2kΩ なら 1.3mV も現れます。
これを避けるには、デカップリングを持ち込むか、負荷抵抗に代わりに定電流源を使うことです。 あ、定電流源もキャパシタンスがあることをお忘れ無く。 高い周波数は漏れてきます。
ベースバイアスの電圧分割回路:
ベースのバイアス電圧を作るのに Vcc と GND との間で抵抗を使って分圧するのなら、一度デカップリングした方がいいでしょう。 コレクタにデカップリングをかませてあるなら、そのポイントが使えます。 もし前段のコレクタにデカップリングがあるなら、そこを使うのが正解です。
低いインピーダンスの回路への磁界結合:
リップルの電圧は離れたところに直接のデカップリングがあるとそこへ向かってリップル電流を引き起こします。 この電流通路で形成される磁界を拾う向きに低いインピーダンスの信号ループがあるとノイズになります。
しかしこれが実際に問題になることはあまりありませんから、とりあえずは忘れていていいでしょう。 他の手段をすべて講じてもだめなときは思い出してください。
[出さない]
出さない工夫はやっておかねばなりません。
整流直後の電源:

これはあるていどやむを得ません。 例えば右の図で、平滑キャパシタから負荷に対しては需要に応じた電流が連続的に引き出されていますが、 電荷の供給はトランス側のピーク電圧に近いところでしか行われませんので、電圧は鋸歯状波になってしまいます。
このリップルを小さくするには、両波整流は必然です。極端には三相の両波整流といったこともあり得るでしょう。 充電の頻度を上げればいいのですから、スイッチング電源を持ち込むのも手ですが、今度は高周波のノイズをばらまかないようにしなければなりません。
手っ取り早く下げるにはキャパシタの容量を上げることです。 2倍にすると約半分になります。 でもこれも限界がありますね。
ノイズを受ける方がセンシティブな回路であるなら、完璧を期すにはこのあとに定電圧回路を入れることになります。

定電圧電源の参照点:
右のような簡単な回路を実装することにしましょう。 問題点を明らかにするために、思い切り単純化しています。
このプリントパターンの問題点が分かりますか?
平滑キャパシタの充電電流は瞬間の大電流であることは以前の記事で書きました。 このパターンはその電流通路の途中を参照点にしていますので、出力はリップル電流の影響を受けてそのノイズを乗せてしまいます。
図の中の A 点と B 点は同じ位置でなければなりませんし、その間にノイズ電流が流れる仕掛けにしてはなりません。
平滑キャパシタのリターンパス:
同様に、右の図のように接地を行いますと、グラウンドの金属はあちこちで異なる電位となりますから、装置全体の収拾がつかなくなります。 平滑回路にはものすごく大きいスパイクノイズ電流が流れていることをお忘れなく。

この状態は、初心者が組み上げた装置でしばしば目にすることがあります。
DC-DC コンバータ:
やむを得ず DC-DC コンバータで高い電圧や極性の異なる電圧を作ったとしましょう。 市販のコンバータは最近はあまりノイズを出しませんので、神経質になることはありませんが、自分で組んだ場合はまき散らさない工夫が必要です。
ひとつは周波数が高いことです。 これはスイッチング周波数のことではありません。 中で使うパルスの立ち上がるに含まれる高周波のことです。 数十 MHz はざらですから、きちんとシールド(静電シールド)を施します。
コイルを使ったインバータの場合はフラックスも出ているでしょうから、そのシールド板を導電率の高いものにして、電磁シールドを兼ねるといいでしょう。
あ、リップルの話でしたね。 ここから出力される電源は低いインピーダンスですから、かなり容量の大きいキャパシタでもリップルは取り除けません。 電解キャパシタの持っている ESR と 内部インダクタンスがあることも寄与しています。 ですから、一度コイルを通して、高周波に対するインピーダンスを上げておいてからキャパシタで落とすといいでしょう。
この問題は入力側でも起こります。 回路がスイッチされるたびに間歇的に電流が引かれますから、一次側の電圧が揺れます。 こちら側もコイルで分離してキャパシタで落とすといいでしょう。 上記のコイルと共通にして、コモンモードフィルタにできます。
もちろん、このブロックはデジタルグラウンドとして、他から分離したグラウンドパターンを形成し、一カ所でつなぎます。
パワーアンプ、または大負荷:
パワーアンプのブロックは大きな電流を引きます。 これによって
1.電源が揺れます
2.グラウンドが上昇します
この2つが周りに影響することを忘れないようにしてください。 実装状態をそういった目で眺めると、リップルがどの回路に届くかが分かります。
