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銅には抵抗がある


International Annealed Copper Standard (IACS) では銅の体積抵抗率は 20℃ の時 1.7241*10^-8 Ωm という値を使うことが示されています。

それだけ聞くと、「あ、そう」 で終わるところですが、もう少し詳しく見ていくことにします。

温度が変わると抵抗が変わります:
意外と大きな温度特性を持っていて、100℃ では 2.26*10^-8 程度まで上がります。 一次近似で、20 ℃の時に 0.00394/℃ 位の温度係数(注)があります。 何か精密なものを作るときには考慮する必要があるかもしれません。
でもまあ、電子回路を設計するときはそれほど心配しなくてもいいでしょう。

導線や銅箔の抵抗はこうなります:
導線の抵抗は結構大きなものになります。 たとえば、AWG#30 の単線(PC板でジャンパに使われる線)を 10m 使うと、3.4Ω にもなります。 コイルなどでは大いに問題となる値で、これはちゃんと想定しておかねばなりません。  私は、ボイラや水道水の精密な温度測定をやるときに失敗しました。 凍結温度で警報を出したかったのですが、8m ばかりの耐寒シールド線の抵抗を忘れていて、あとで誤差補正の回路を入れる羽目になりました。

PC板で、1オンス銅を使ったものでは、0.5mm 幅で 1cm の長さのプリント配線は、約 10mΩになります。  ここに 1A の電流が流れると 10mV の電圧が出るわけで、アナログ回路では決して無視できる値ではありません。 これについては重要なので後述します。

無限大の銅箔の抵抗は、2点間の距離を s、測定点のスルーホールの半径を r、箔の厚さを t、体積抵抗率を ρ とし、 r>>t を想定すると近似的に
 R=ρ/(π*t)*ln(s/r)      (Ω)
で表されます。 ln は自然対数です。 r が効いてくるんですね --- これはアース棒を埋めるときも同じです (参考文書)。
1オンス銅で、直径 0.3mm のスルーホール2つの間の距離が 5cm あると、約 0.9mΩ です。  それほど心配いりませんが、精密な回路では心の隅に留めておきたい程度です。


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それでは「銅の抵抗は怖い」という話をします。

怖い話1: 
右の絵はあるメーカが作っていた、とても低い歪率の正弦波発振器に使われていた、プリント基板の中の部品配置です。
電源ラインにはわずかに120Hzのリップルが入っているので、基盤の中にデカップリングを入れてその変動分を吸収しようとしています。

この測定器は、当時「これよりいいものはない」、というので、早速購入して使わせてもらいました。 (私の作ったアンプは業界では一二を争う低歪みでした)
通常の測定では申し分なかったのですが、イコライザの測定で問題が起きました。 どうやっても歪率が下がらないのです。 
競合各社はその値程度で満足しているようですが追求しました。 
基本波を抜いた後の信号に 120Hz のリップルノイズが乗っていました。
原因を究明していくうちに、測定器の中まで入り込み、ついに右のデカップリングに行き当たりました。  リップルをバイパスしているつもりが、グラウンドラインに瞬間的に(リップルの立上がりの瞬間)電流が流れ、回路網の各部分がわずかに異なるグラウンドレベルを参照していたのです。
RIAAイコライザ回路は低い周波数を持ち上げているので 120Hz ノイズが現れてきて問題が顕在化しました。

1000uF を基板上で切断し、撚対(よりつい)線の太いもので入力近くにつなぎ直して解決しました。
今考えると、グラウンドノイズのピーク値が 10uV 程度あったものを 12dB ほど改善したのではなかったかと思います。  これで他社より遙かに小さいノイズ/歪の測定値を誇ることができました。

ずっと後になって、IBM の PC を買ったとき、ライン出力にノイズが乗っているのに気が付きました。  上記と同じように、低周波増幅回路の参照点間がリップル電流の帰線にもなっていましたので、太めの線をプリント基板にベタ付けしてノイズを消したことがあります。

アイワの 2400bps のモデム(古い!)でも同じことがありました。


怖い話2: 
右の図は 12/03/04 の記事から持ってきたものです。 これに似た回路を手作りで実験用に作ったときの話です。

電源の接続を図の左側から行いました。
そうしたところ、偶数次の調波歪みが大きく現れて、仕様を満足できなくなりました。

出力がマイナスに振ったときに、スピーカからの流入電流は下側のダーリントントランジスタを通り、プリント基板上を流れて左に抜けます。  当然、B点の電位はA点の電位よりわずかに高くなります。
Bを基準に考えると、Aの下がり分(変分)は、Q1 のコレクタのインピーダンスが高いですから、そのまま Q3 のベースの変分となります。
すなわち、AB間の変分は Q3 の入力です。
この段はブートストラップを抱えていますので増幅率がとても高く 40dB 位あります。  仮に変分が 10mV だとすると、コレクタは 1V 程度振ります。 NFBで 30dB 抑制したとしても 30mV 残ります。
これは、例えば 10V の出力に対して 0.3% の歪みになります。

スピーカの端子をプラスに振るのは上側のパワートランジスタですが、こちら側のプリント回路はQ3のエミッタにつながらないので上記の原因になりません。  従って、負に振るときだけ信号がのびなくて、偶数歪みになる訳です。

これは電源の供給点を右側に移して、ついでにパワートランジスタは外部で接続するようにして解決しました。

AB 間の抵抗は負荷(スピーカ)の電流通路であると同時に、Q3 の入力信号源のインピーダンスでもあるわけですので、こういったものを 「共通インピーダンス」 とか 「結合インピーダンス」 と呼ぶこともあります。


怖い話3:
右の図は両極性の電源回路です。 数アンペアを供給する場合に、平滑のキャパシタは 10,000uF とか 33,000uF といった大きな値になることもあります。
いま、負荷が 3A ほどだとしましょう。 また、トランスやキャパシタの Esr を含む、充電側のインピーダンスは 0.03Ω程度、キャパシタは 22,000u、電源周波数は 60Hz、トランス出力は実効値で 12V*2 としましょう。 ダイオードは理想ダイオードとします。
充電電流はどの程度になるでしょうか。

1/120 秒の間に 3A の電流は 0.025 クーロンの電荷を消費します。 22,000u の電圧は 1.1V 低下します。
この失われた電荷を充電できるのは、電源側が 15.9V より高くなりピークに達するまでの限られた時間だけです。  計算すると、半サイクル(8.3ms)のうちでわずかに 0.9ms の期間だけになります。
充電波形はかなり複雑ですが、仮にサインの半波に近似させてみますと、ピークで約 30A というとんでもなく大きい値になります。  負荷が連続的に電流を引いているのに対し、充電は瞬間的に行わなければならないので、大きくなる、というわけです。

そこで、図の中の青色の線を見てみます。 上のCから下のCまでの間を、直径 0.5mm 長さ 5cm でつないだとします。 抵抗は 1.7*10^-8*5*10-2/(0.25*10^-3)^2*3.14 ですから、4.3mΩ になります。 30A 流れると、0.13V の電位差が現れます。
シャーシ(筐体)につなぐとしたらどこからつなぐのでしょうか。 これはまずいことになりました。

上側の Load と下側の Load で基準がずいぶん異なることになります。 これは問題です。 線の長さを短くしてみましょう。 でもケミコンの端子ですから、せいぜい 3cm が限度でしょう。 ではその上に太くしましょう。 思い切って直径 2mm に換えましょう(手では曲がらない太さです)。 電位差は 4.9mV まで落ちすが、まだ問題になるときがあるかもしれません。
ですから、 Load が複数個ある時は、基準は電流の流れる場所の離れたところにつないではいけません。 同じところから取るようにしてください。
電源の電解キャパシタの帰線は鬼門です。
トランス、ダイオード、電解キャパシタ、電解キャパシタの反対端子、トランスへの戻り、、、このループに注意がいります。 このループはノイズの磁束も出すのですが、その話はまたの機会に。


怖い話4:
次はあるノートパソコンです。
このノートは、LCDディスプレイに関して多くの問題を持っていました。  特にフラットケーブルとコネクタとの間の接触不良で、画面の輝度がちらついたり、信号がとぎれたりしたことで有名でした。
信号の方は改良されたのですが、LCD インバータの電源についてはついに解決されず、私の機械は自分で改良しました。 

右の図は、LCD のバックパネルから冷陰極管のインバータへつなぐフラットケーブルです。
問題は GND ラインの銅箔の抵抗でした。 約 150mΩ あります。 ところが、これとは別の経路で GND が取られており、それが不完全な接触になる様な設計でした。 そのおかげでバックライトがわずかに明るくなったり暗くなったりしてちらつくのです。 150mΩ での電圧降下が発生したり無くなったりする結果です。

私の修理は、接触の改善(半田付けしてしまう)をするものでしたが、右の様にパターンを改善すればさらに故障の危険性が低下します。
2つの場所の接触が同時に悪くなる確率は小さいですから、並列にしてしまうわけです。 また、銅箔を太くして、電圧降下を小さくします。




[注]
摂氏で T1 度の時の抵抗を R1、T2 の時の抵抗を R2 としたとき、R2 は次のような式で近似できます。

          R2 = R1 * { 1 + β * ( T2 - T1 ) }

この β を抵抗の温度係数といいます。 この係数自体が温度の関数になっていて、摂氏 T 度の時の β は、

          β = 1 / ( 233.54 + T )     但し、 T > -200 ℃

で近似します。 この T に 上の T1 を入れます。   面白いことに、温度で β が変わるのですが、抵抗の上昇(ΔR/ΔT = 6.8E-11Ωm/℃) 自体は温度が変わっても一定になります。



[余談]
上の、怖い話1で 「歪み率が下がらない」 と書きました。 実際にはノイズレベルが下がらないと書くべきです。 でも、これには訳があります。
全高調波歪み率(THD) の定義は、ある信号を測定し、その電圧を正弦波で校正した実効値目盛りの平均値メータで測り、その値を1とする。  ついで、その信号から基本波成分を取り除いて、残ったごちゃごちゃした波形の電圧を、またもや実効値目盛りの平均値メータで測り、元の値の何%であるかを表示する、ということなのです。
ですから、残っている波形には、高調波成分だけでなくノイズ分も入っていていいのです。

ここで疑問がわきます。 残った成分は正弦波じゃないのに、正弦波で校正した実効値指示の平均値メータで測ってもいいのか? え?  でたらめじゃないか。。。   まあまあ落ち着いて。
この答えは、「そう定義する」 ということなので、それでおしまいです。
本当は、周波数ドメインのグラフをスペクトルアナライザで出して、基本波成分を 0dB として、第2高調波が -xxdB、第3高調波が -yydB、、、 というように第7あたりまでリストにするといいんでしょうね。  そのとき商用周波とその第2調波分も併記すれば、リストを眺めたとき、歪みの内容について理解することもできます。

[余談2]
上の「怖い話1」で述べた、原因追及の時ですが、発振器だけでなく歪み率計の方でも問題を見つけております。  こっちの方は、非常に低い周波数の歪み測定時に、Twin-T のインピーダンスが高くなって、近くにあった交流電圧(パイロットランプ)からの静電誘導を受けたものでした。  交流回路をシールド線に交換し、むき出しになるところは遮蔽板を入れて解決しました。

2013.5.22 追加 [追加情報]
鉄の体積抵抗率はというと、まあいろんな種類の鉄がありますから一概には言えませんが、おおざっぱに言って 1E-7 位です。 銅の5倍ぐらいです。 
それで、いつも無造作に使っているミノムシクリップですが、これが意外と問題を引き起こします。
右のように接続して 1A を流してケルビンプローブ(4端子法)で抵抗を計ってみますと 8mΩ から 10mΩ 程度あることが分かります。

私は、これを避けるため、接続しているケーブルを左端で半田付けするのではなく、2つの束に分けた後、それぞれを上下の歯の先端近くまで引っ張っていってそこで半田付けすることがあります。