ノイズ電圧測定時の帯域
ホワイトノイズの場合はノイズ電圧はほぼ測定周波数帯域の広さの平方根に比例します。
ということは、「ノイズ電圧は何ミリボルトです」 と言うときは、測定条件として帯域がどうであったかを同時に提示する必要があるわけです。
さらに、ノイズの性質がホワイトでなければカットオフの傾斜についても定義しておく必要があります。 (さらにいうと、メータの反応速度のアタックとディケイを規定してピークを採るか、または遅くして平均を採るかといった問題もありますが、今回はそこまで追求はしません。)
ここではオーディオ領域でのノイズ測定についてお話しします。 この測定時のフィルタ特性については探してもなかなか無いので役に立つと思います。

まず右の表を見てください。 これは ONKYO のあるアンプの仕様書のSNの部分です。 IHF-A というのが帯域とスロープを規定しています。 この規定は Institute of High Fidelity Manufacturers が最初に作ったものですが、その組織は IHF と名前が変わり、さらに EIA に吸収されました。 IEC60651 の規格になったあと、今は IEC 61672-1 となっています。 (JIS にもありますが、これをコピーしているだけです) 下にそのカーブをお見せします。 赤いラインです。
このように、ある周波数帯に重み付けをする回路のことを「Weighting Network」といいます。

詳細な表を右に掲げます。 0.1dB で丸めています。
db(A) というのが IHF A カーブで、小さいノイズレベルで耳の感度の良いところを拾い出す様に考えてあります。
フレッチャー・マンソン・カーブの谷になる部分です。 dB(A) は dB-A というように表記されることもあります。dB(C) というのは比較的大きなノイズレベルのものに対して適用されます。
dB(B) はそれらの中間ですが、滅多に使われませんので忘れていいでしょう。
dB(D) は IEC60537 で規定されている、ジェット機の音響ノイズ測定用です。
dB(G) は ISO7196 で規定されている、超低周波ノイズの測定用です。 私も超低周波騒音に悩まされたことがありますが、その当時はこれがありませんでした。
dB(U) と dB(AU) は EN61012 の規定ですが、超音波のある中での可聴周波数帯のノイズを測るときに使います。 (AU) は超音波を消した A カーブです。
この表より桁数の多い、精密なAとCの表をここに置いておきます。 ==>A-C-Numeric.xls
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それでは、A と C のフィルタを設計してみましょう。 作ることまではしませんが単純な回路ですので設計通りの特性が出るはずです。
最初のグラフを見ると、バタワースのカーブでないことが分かります。 肩の特性がバタワースよりもなだらかです。 うまくすると単純なラダー回路を作って、ステージ間で若干のスタガリング(脚注)を施せば実現できそうです。
特に、Aカーブの Low Cut は極端にゆるいカーブで、スタガの常識とは反対の方向に持ってゆかねばならないでしょう。
A と C 両方とも High Cut は同じ特性になっていますが、A は Low Cut が 1kHz まで食い込んでいるため、1kHz でノーマライズする分(約2dB)だけ持ち上がっています。
ラダー回路を計算式に入れ、スタガー比を若干上下させてカーブにフィットさせました。
ほんとは1行ですませるほど簡単ではなかったのですけど。


IC3 の直前にある 179p は浮遊容量を含んだ値ですので、見繕って少し小さめのキャパシタにしてください。 IC3 は負荷が 1.3kΩほどの低い値になりますから、それがドライブできるものにしてください。
下のグラフは誤差です。 一番悪いところで 0.1dB 程度ですが、ずっと下がった位置での 0.1dB ですので問題にはなりません。 Weight した図も表示しておきます。

この重み付けの回路を通った後は全波整流しますが、その出力につなぐメーターは IHF では正弦波での実効値目盛りを付けた平均値指示のものを使うことになっています。 つまり、可動コイルのメーターにサイン波の実効値目盛りを刻んだ通常の交流電圧計です。
ここでちょっと面白い考察をしてみましょう。
ノイズ測定回路がノイズを出していたら笑いものです。 その観点から見ると、上記の回路は、もし小さい信号を扱っていたとすると、弱点が2つあります。 ひとつは IC4 の入力部分です。 (こういうポイントは、なれてくるとすぐに分かるようになります)
1. 155k がジョンソンノイズを出します。
2. IC4 の入力雑音電圧があります。
3. IC4 の入力雑音電流があります。
これらがごく普通のことと思ったら大間違いです。 1で出たノイズは、通常ですとカップリングキャパシタから前段に流れて行き、前段の出力インピーダンスでシャントされてほとんど無くなってしまいます。 ところがこの回路では Low Cut フィルタのキャパシタがあるため、周波数が低くなるほどシャントされなくなって電圧が上がっていきます。 低域のノイズを切ったはずなのに、低域ほどノイズが上がるという笑えない現象が発生します。
3で出たノイズは 155k の両端で電圧になり、上と全く同じ現象が発生します。

2はこの現象はありません。
さて、この IC4 ですが、入力雑音(電流も電圧も)にはフリッカ雑音という種類のものが含まれています。 これは周波数の平方根に比例するホワイトノイズと異なり、周波数が低くなると増えてくる、いわゆる 1/f ノイズとよばれるものです。 よく考えると、これは問題です。
周波数が低くなると増えてくるにもかかわらず、カップリング回路は周波数が低くなるほどインピーダンスが上がって行き、ますますノイズを消すことができないのです。 1/f の2乗でノイズが増えます。
ですからこの能動素子の選択には注意が必要であることが分かります。 フリッカの小さいものにしてください。
たとえば、J-FET のオペアンプはバイポーラのオペアンプよりノイズは大きいことになっていますが、バイポーラトランジスタはフリッカが大きいのでこの場合はバイポーラは不利になります。
この表はバイポーラの低雑音オペアンプの NE5534 の仕様書の抜粋ですが、赤い矢印は 30Hz では 1kHz における雑音電流より遙かに大きくなっていることを示しています。 これがフリッカです。
まあ、IC4 は J-FET とバイポーラトランジスタのダーリントン接続のエミッタフォロアが一番いいと思います。 そのときはゲインがわずかに下がりますので、その分だけ IC3 を上げ、IC5 を下げてください。
もう一つの弱点は IC3 です。 この前にある 72.6k+2.2k が高いため中域でのノイズが存在します。 これを小さくするにはスタガー比を小さくすればいいのですが、そうすると肩特性がゆるみます。 もう一つの手段として 2.2k もひっくるめてインピーダンスレベルを下げるという方法があります。 しかしこれは前段から見ると負荷が重くなるのでむつかしいでしょう。
そこで、これらをまとめて対策するには前置増幅器をつけて、全体の信号レベルを上げるのが一番良いと思います。
20dB の2段を回路図に書き込んでありますが、詳細は省略しています。 適当に、NFB やカップリング回路を入れてください。
このプリアンプは帯域が広いので一挙に 40dB 持ち上げるのは難しいでしょうから、Unity Gain が 10MHz 位のオペアンプを 20dB で使ってください。 初段は低雑音のものを選択するか、ディスクリートで作ってください。
さて、あなたが設計した被測定アンプのノイズレベルはいくらぐらいですか?
入力換算で、dB(A) をかぶせたとき -140dBV よりいいでしょうか。
[関連記事]
ノイズ電圧測定時の帯域 (その2)
[参考]
JIS C 1509-1 電気音響-サウンドレベルメータ (騒音計)
[余談]
IHA(A) と IHF(C) の定義伝達関数の絶対値は次の通りですが、これをそのまま忠実に回路に反映しますとオペアンプの数が増えてしまいます。
IHF(C) = 20 * LOG[(F4^2 * f^2) / {(f^2 + F1^2) * (f^2 + F4^2)}] - C1000
(dB)
IHF(A) = 20 * LOG[(F4^2*f^4) / {(f^2+F1^2) * SQRT(f^2+F2^2) * SQRT(f^2+F3^2)
* (f^2+F4^2)}] -A1000 (dB)
ここで f は Hz で表した周波数。
また
C1000 = (IHF(C) の第1項の 1kHz での応答), A1000 = (IHF(A) の第1項の 1kHz での応答)
F1 = SQRT [ 0.5 * {-B - SQRT(D^2 - 4*C)}]
F2 = FA * [0.5 * {3 - SQRT(5)}]
F3 = FA * [0.5 * {3 + SQRT(5)}]
F4 = SQRT [ 0.5 * {-B + SQRT(D^2 - 4*C)}]
B = {1/(1-D)} * {FR^2 + (FL^2*FH^2)/(FR^2) - D*(FL^2+FH^2)}
C = FL^2 * FH^2, D = SQRT(0.5),
FL = 10^1.5, FH = 10^3.9, FA = 10^2.45, FR = 1000
IHF(A) = 20 * LOG[(F4^2*f^4) / {(f^2+F1^2) * SQRT(f^2+F2^2) * SQRT(f^2+F3^2)
* (f^2+F4^2)}] -A1000 (dB)
ここで f は Hz で表した周波数。
また
C1000 = (IHF(C) の第1項の 1kHz での応答), A1000 = (IHF(A) の第1項の 1kHz での応答)
F1 = SQRT [ 0.5 * {-B - SQRT(D^2 - 4*C)}]
F2 = FA * [0.5 * {3 - SQRT(5)}]
F3 = FA * [0.5 * {3 + SQRT(5)}]
F4 = SQRT [ 0.5 * {-B + SQRT(D^2 - 4*C)}]
B = {1/(1-D)} * {FR^2 + (FL^2*FH^2)/(FR^2) - D*(FL^2+FH^2)}
C = FL^2 * FH^2, D = SQRT(0.5),
FL = 10^1.5, FH = 10^3.9, FA = 10^2.45, FR = 1000
回路の一例としては次のようになります。

[スタガー比]
このサイトの中だけで使う言葉です。 私が勝手に定義したものです。
ラダー回路の、各ステージは前段のインピーダンスの影響を受けます。 影響を軽減したいときは、前段に比べてインピーダンスレベルを高く取ります。 この、高くする比率を、勝手に「スタガー比」と名付けました。
フィルターの肩の部分の特性は、スタガー比を高くすると、少しだけですが、ある程度持ち上げることができます。 逆に1以下にするとなだらかな落ち方になります。
High Cut フィルターではかなり肩の特性が上がっているので、スタガー比は 33 という大きな値になっています。 ラダー回路としてはもう限界でしょう。
逆に、Aカーブの Low Cut フィルタはスタガー比を 0.5 と 0.6 にした段を入れています。
こうやってラダー回路を作ることをスタガリングと呼ぶことにします。
