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ノイズ電圧測定時の帯域 (その2)



以前の記事 「ノイズ電圧測定時の帯域」 で、ノイズを測定するときはバンド幅を規定する必要がある、ということを言いました。
ところで、今仮に一次の RC ローパスフィルタを通しますと、 -3dB の周波数は RC の値で決まりますが、ノイズとして測定される帯域はその値とは異なります。  これはあまり語られないことなのですが。

-3dB の周波数 (右図の ω = 1 の位置) を ω0 としますと、ω0 より下側は減衰した部分があります。  逆に ω0 より上の部分には漏れてきているものがあります。 この両者を比較しますと、漏れてきているものの方が優勢なのです。  ですから、ノイズを測定している等価な帯域は実質的に ω0 の点から右にずれた位置になるのです。
それを見てみましょう。


この右の図は上の図を書き直したものです。
まず、横軸を対数でなくリニアにしています。 縦軸は電圧でなく電力にするために二乗にした上で dB ではなくリニアに取っています。  電力にした理由は、音量は電力に比例するからです。
見違えるほど異なったカーブになります。 ω0 の周波数では電力が 0.5 の値になります( ω0 の定義ですから当然ですが)。

ω0 の下側の欠けた部分は上側の存在している部分より小さいと言いました。  本当かどうか、適当に ωB という境界線を引いて、その上側と下側を比較し、同じになる位置を見つけます。

ノイズはパワーで比較し、またホワイトノイズを想定して周波数の変分を掛けた上で比較します。



上の図です。 
バタワース
次数
ωB/ω0
の比
一次 1.571
二次 1.111
三次 1.047
四次 1.026
五次 1.017
六次 1.012
七次 1.008
八次 1.006
水色の欠けた部分と、オレンジ色の余分な部分のパワー・バンド積が等しくなるような ωB を、調整して見つけます。  (実際には単に周波数を 0 から無限大まで振って積分するだけです。)

計算すると、一次のフィルタでは ωB は 1.571 位になります。  ですから、例えば 10kHz のバンド幅でノイズを測定したいときには ω0 は 6.37 kHz にしなければなりません。

同様に、もっと急峻に切れる二次以上のバタワースについても計算してみました。 結果は右の通りです。


ノイズ電圧測定時の帯域」 で作成した IHF-A のネットワークの応答(右図)のバンド幅はいくらになるでしょうか?
カーブを定義する伝達関数の周波数応答を出し、それを二乗して周波数の変分を掛け、十分高い周波数まで積分してやると

     13.46 kHz

という答えが出ました。 上に飛び出た部分があるせいか、意外と広いバンド幅です。 

ついでに IHF-C についても計算してみたら、9.666 kHz という結果になりました。 驚いたことに IHF-A より狭くなっています。 
実際にノイズを測定するときは、一般的にはホワイトノイズだけではなく、フリッカノイズも入っていますから、帯域は狭くても低域に感度のある IHF-C の方がノイズ電圧は大きくでます。 RIAA/NAB イコライザの時は低域が持ち上げてありますから確実にそうなります。  しかし低域を切ってあったり、フリッカよりもホワイトが優勢なフラットアンプの時などでは、IHF-A の方が高く出るときもあります。
アンプのカタログを見るときに注意してみてください。  Phono は IHF-A の S/N が書いてあり、Aux や Tuner は IHF-C の値が書いてある場合があります。 これは、その方がよい値が出るからです。



[余談1]
バターワースで行った計算は、通過域が 1 で阻止域が 0 のフィルタに等価させる、ということなのですが、このあり得ないフィルタのことをときどき 「Brick-wall」 と表現することがあります。 レンガの壁のように垂直に立っているという意味です。

[余談2]
積分計算には 「数値積分」 という野蛮な方法 (brute force) を使いました。 数値積分にもいくつか種類がありますが、今回は Newton-Cotes の台形近似を使っています。 (右図)

バタワースのときはΔを 0.0001 にして、積分上限を 10000 にしています。 右の台形を、ω を 0 にして作って面積を計算し、次に ω を 0.0001 にして面積を計算して足し込み、、、、ということを1億回繰り返します。  関数が単純なものでしたから、1億回でも2分ちょっとで計算ができますが、複雑な関数になりますと計算時間がかかりますので、少し工夫します。
IHF-A の計算のときは1回の計算がかなり複雑です。  最初は 1Hz で刻んでいき、100kHz を超えるともう傾斜がなだらかになっていますから、Δを大きくして 10 に取り、1MHz を超えるとさらに広くして 100 にしています。  打ち切りは 10MHz です。

数値積分をやるときはいくつか注意点があります。 特に丸めの誤差 (rounding error) には注意が要ります。  1億の刻みですと8桁ですが、計算中の有効数字を8桁に対して十分多く取っておかないと誤差が積み重なっていきます。  精度を上げようとして刻みを細かくすると、逆効果になることがあるのです。 今回は仮数部が 14 桁 でしたので大丈夫です。

[余談3]
数値積分には他にも「ルンゲ・クッタ法」やそれを改良した「ルンゲ・クッタ・ギル法」があります。  元の方程式を微分方程式と認識して解を求めることになります。