Joule Thief
Joule Thief と呼ばれる回路の動作原理について考えてみたいと思います。右の回路はいずれも簡単な昇圧回路で、LED を点灯します。
電池の残量が 0.5V 程度に低くなるまで動作しますので、エネルギーを搾り取る意味で Joule Thief と名付けられています。
とりわけ一番上のものは部品数が少ないので安価な庭園灯によく使われています。 (最近はソーラーセルからの充電回路も入れた IC になってきましたが)
この回路の動作原理ですが、あちこちに書かれているのが間違っていることが多くて気になっていましたので、ちょっと考察してみることにします。
電源投入直後からトランジスタが ON に移行する過程は単純なのですが、ON になってから OFF への移行がわかりにくいのですね。
実際に作ってみることにします。 トロイダルコアは手持ちの、特性が分からない物でしたので、まずコア特性を調べます。
寸法は外径 13、内径 8、高さ 8 (mm) です。
試験用にコイルを巻くきました、115T 。 抵抗は 0.7Ω。
R と組み合わせて τ=L/R でインダクタンスを測定してみると 760uH でした。 どうやら Hydrogen Reduced Iron の模様です。 比透磁率は 70 程度です。 ついでに式を紹介しますと:
L=N^2*μ*S/l (H)
ここで、L: Inductance, N: Turns, μ: permiability,
S: cross section, l: length of magnetic circuit
DC を重ねて、コアの飽和の無いことを確認しておきます。 11.5AT(アンペア・ターン)で励磁してインダクタンスの低下は認められませんでした。 これに 50uH 分 2 つの線を巻いてトランスにします。

ここでちょっとバイファイラ巻について:右の図のように、2本の線を非常に接近させてコイルを形成する方法を「バイファイラ巻」と称します。 伝送線トランスを作る時に使います。
もともとトランスというのは、コイルが作る交番磁束を別のコイルの中を通してその2次側のコイルに電圧を誘起させるのが目的です。
この時、2次側のコイルに負荷をつないで電流を流しますとその電流は元の磁束を打ち消す方向になって、磁束が外に漏れやすくなります。 なので、2つの巻き線をとても接近させて、他に磁束が行かないようにする工夫です。
また、より重要なことなのですが、2本の線が接近しているので、その間に容量ができます。 そのため、単に磁束を介して信号がやりとりされるだけでなく、容量を通しても信号交換がなされます。 とても高い周波数で、コアがその変化速度について行けない領域でもトランスとして動作し、広帯域にできます。 これを「伝送線トランス」といいます。 2本の巻き線は接近させますが、隣の巻き線とは離して、容量結合しないようにします。
伝送線トランスについては、詳しくは別記事「伝送線トランス Transmission Line Transformer」 を参照してください。
今回はタップを出す関係でバイファイラにせず 60T (200uH) 巻いて、センタータップを出し、CT から両側に 10T の所に実験用のタップを出しておきました。 非常に高い周波数域で結合が弱くなりますが、動作原理を調べる障害にはならないでしょう。
トランジスタはあり合わせの 2SC2329 という VHF 用の小電力のものです。
スコープしてみます。
左は Vcc=1V、緑はコレクタ電圧、黄はベース電圧。下はトランス両側の電圧、縦は 1V/div。

この右上の図で、トランスの両側の電圧波形を観察すると、動作が理解できます。
トランジスタが ON になったあと、一次側の電流は、コイルのリアクタンスがありますから、一度に全開で流れるのではなく次第に大きくなるカーブをたどります。 しかし、その傾斜(dI/dt)は負の指数関数で少なくなっていきます。 二次側を観察しますと、最初は一次側の落差電圧と同程度が逆方向に出ますが、だんだん
dI/dt が小さくなっていくと、起電力が次第に落ちていきます。図で、1.6V 付近まで落ちますと、VBE の値を引いた 1V が 1kΩ を通ることになり、ベース電流は 1mA ほどになります。 この時点でコレクタ電流は 40mA ほどですから、(HFEがその程度なら)トランジスタは飽和から抜け出そうとする位置になります。
抜け出そうとすると、コレクタ電流はほんのわずか少なくなるのですが、dI/dt が負のせいで二次側の電圧が小さくなり、正のフィードバックで急激に遮断されます。 二次側の電圧はその落差分だけ下がって、負の領域まで行きます。
一次コイルに流れていた電流は磁束が突然 0 にはなれないので流れ続け、コレクタ周りの浮遊容量を充電し、高い電圧になります。 その電圧は LED の PN 接合のバンドギャップを乗り越えて点灯させることになります。 3.6V 付近でクランプされます。
dI/dt は小さくなり続け、コレクタ電圧(=LED 電圧)は下がっていきます。 それでも LED を通して電流が流れているあいだは電圧低下はなだらかです。 LED の点灯限界(2.8V ほど)まで落ちると流れなくなるのですっと落ちていきます。 二次側の電圧は電池電圧に向かって上昇します。 トランジスタのベース電流が流れるまでになると、急激に ON に移行します。
発振条件には直接関係ありませんが、上の左の図で、ベース電圧が ON の後次第に上昇しているのが不思議かもしれません。 トランス二次側の電圧が下がっていくのですからベースの電圧は下がるはずだ、と考えるのが自然でしょう。 この理由は、ON 直後はコレクタが低い電位になり、ベースに流れる電流はエミッタだけではなく、コレクタに向かっても流れるためです。 コレクタ電流が時間と共に大きくなると、飽和電圧が上がってくるのでベース-コレクタの順方向電圧が下がり、PN 順方向電流が下がるので電圧が上がって行きます。
HFE が高かったり、電池の電圧が低いときは、OFF への移行が困難になることが分かります。 コイル二次側の電圧変分がベースに反映されるのは 1kΩ と hIE との分割になっています。 1kΩ を 0.1uF 程度でバイパスさせてやると変化分がそのままベースに行きますので移行がスムーズになって発振しやすくなります。

Vcc=0.6V時のコレクタとベース電圧は左の図の通りです。
エミッタに 0.5Ω の抵抗を入れて電流を測定しました。 黄がその両端の電圧です。Vcc=1V のとき、ピークで 40mA です。 1.2AT ほどしか励磁されておらず、コアは飽和からはほど遠い状況です。
1.5V の時でも 2.2AT ほどです。
IE と VCE を捕まえましたので、その2つでリサージュを描くと負荷曲線もどきを観察できます。
Vcc=1.3V (NiMH電池)を繋いでみました。コレクタ電流の代わりにエミッタ電流を使っていますから「もどき」です。
時間の値がわかりにくいですが、すぐ上のエミッタ電流/コレクタ電圧の絵と見比べると分かります。

Off に移行する瞬間にベース電位が大きく負に振られますから、エミッタからベースに短い期間だけスパイクの充電電流がありますが、これは無視してください。
効率は 1.5V の時に 25%、1V の時に 18% 程度です。 10T のコイルを使ったときはそれぞれ 12%、11% と低下します。
あまり効率の良いインバータではないですね。
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