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機器間の接続とグラウンディング


商用の AC 電源を使った低周波の機材が2つ、離れて置かれていて、その間の信号線をつながなければならないとき、どのようなグラウンディングをするべきでしょうか。  これは私も長い間頭をひねっていた問題です。  経験則によることや、実際の局面で実験的にやっつけるときもありますが、なにか基本的な原則は持っていた方が良さそうです。

学生時代にアルバイトで放送局のロケの機材の設定を手伝ったことや、コンサートホールで舞台やコンソールのオーディオ機材をつないでいたときもありますが、 そんなことには全く気を回していませんでした。  プロの方があちこちのグラウンドをはずしたりつないだりしていましたが、そのとき何がこつなのか聞く機会を逃して悔やまれます。
このさい、ちゃんと考えてみます。


1. 平衡の時

1.1 トランスでアイソレートできるとき
アイソレートできる平衡の接続では、望まない信号の注入原因は3種類あります。
問題A. 電源ラインかグラウンドを通って、2つの機器のグラウンド電位が異なることによって伝送路を通過する電流。  平衡ラインのインバランス分がノイズになる。
問題B. 送り側の信号が本来の差動でなく、同相として潜り込んで伝送路から受け側へ流れてしまう余分な信号。 これはどういう帰りのルートを通るかが問題となる。
問題C. 3つ以上の機器1、2、3、、、が接続され、1のグラウンドから来たノイズが2の機器内のグラウンドラインを通り、3に抜けたときに、内部で信号に影響を及ぼす電流。  機器2内グラウンド導体での電圧降下がノイズになる。

それら以外に、高周波の回り込みにも注意します。

伝送路に使われるシールド線ですが、特性は個々の線によって異なっています。 ですが、大まかな値は知っておかねばなりません。
芯線間の容量は 70 から 400 pF/m ほどあります。 芯線とシールドとの間は同じ程度かそれより少し大きい値です。 芯線の抵抗は 30 から 100 mΩ/m  程度です。 芯線間の抵抗値のインバランスはそれほど大きくなく 1% 以下だと思っていいでしょう。  シールド外皮の抵抗はものによって大きく異なっており、フォイルとドレイン線では 100 mΩ/m 程度で、編組線でしっかりしているものでは 20 mΩ/m 程度でしょう。
容量については完全な平衡にはならなくて、3 乃至 5% 程度の不平衡が存在することは覚悟しておきます。

1.1.1 送り側だけで落とす
ここで「落とす」ということは、シャーシにつなぐことで、「浮遊容量で商用電源につなぐ」ことでもあります。  場合によっては本当に大地につながれることもあります。
問題 A に関しては受け側でのコイルとコアの間の浮遊容量などによるリーク分だけのループ電流ですみます。  また平衡の崩れた分だけのノイズになりますから、かなり良い状態です。
問題 B に関しては、注入された直後の点で信号源に戻るループができますから、迷路に流れ込む心配はなくなります。  同相注入信号がほとんど無くなりますから、受け側に浮遊容量や、途中に不平衡分があってもそれほど問題とはなりません。
問題 C については、機器2の中での通過電流が無くなりますのでこれも大丈夫です。

さてこれですべて良しかといいますと、そうでもありません。  それは受け側のシャーシと信号線が高周波的に離れてしまって、信号線の端で高い電圧になってしまう可能性があることです。  たとえば、付近の機材のスイッチを切ったときのスパイクに信号線が共振してしまう場合などです。  これは場合によっては大きな問題になります。 その時は受け側と送り側の両方で落とすか、受け側でシールド外皮を 0.1uF 程度で落としてやります。  直接落とすかどうかのスイッチが付いている機材もあります。

1.1.2 受け側だけで落とす
問題 A に関しては、上と同じようにループになりませんからかなりよい状態です。
問題 B に関しては問題です。 右の図のように、迷い込んだ同相信号は、信号線の芯線と外皮を通り、受け側のシャーシに行きます。  そこから AC ラインや、アースラインや、はたまた3つ以上の機器がつながっていればそっちの方まで流れていき、最終的に送り側の機器に戻ってきます。  この帰りのルートは様々な災いを引き起こしますが、システム全体の状態によってどうなってしまうかの予測が困難です。  この困難さは最初から回避しておかねばなりません。 問題が起きてしまってからではドロナワになります。 (発振に至ることもあるとか)
特に注意すべき事は、二芯の片方からシールドへの容量と、反対側の容量とはかなりの差があることです。  このため不平衡分の信号はシールド外皮に乗って、受信側のグラウンド点を通過します。  ケーブルによっては予め片側を浮かしているものがあり、向きを変えると明らかに特性が変化します。
問題 C に関しては、機器2の内部構造次第です。 これはあとで議論します。

高周波では 1.1.1 と同じように問題が発生します。 ですから 0.1uF 程度で落とす必要があります。
まあ、問題 B が解決しませんから、受け側だけで落とすことは推奨されません。

1.1.3 両方で落とす
問題 A に関しては、ループができて信号線の導体のインピーダンス分だけの電圧降下が送り側と受け側の間に発生します。  その不平衡分がノイズ分として混入します。
問題 B に関しては、送り側でシャントされますから受け側に向かって送り出される量は小さくなります。  ですからあまり問題にはなりません。
問題 C に関しては、機器2の内部構造によります。

高周波的には問題はありません。

それでは問題 C に対する考察をしてみましょう。
 
上の左のような構造では、1や4のグラウンドから3に抜けるノイズ電流が2の回路基板上で電圧降下を起こし、参照点 A と B で異なった電位になります。  ですから機器2の内部で S/N が悪化してしまいます。
右の図のように、コネクタを結ぶ回路は基板を通さず、直接つなぎます。 その線はインピーダンスを小さくするために、太くて幅広の方が好結果になります。  また、できるだけ回路基板からは距離を置かない方がいいでしょう。  間に磁束を通さないためです。 もちろんトランスのセンタータップは直接シールド外皮に接続します。
1.1.2 でも 1.1.3 でも、問題 C はこのようにして回避できます。


まとめてみますと、平衡の時の接続の原則は次のようになります:

 - 送り側だけで落とす。
 - 高周波が大きく乗るときは受け側でも落とす。
 - 高周波が大きくないときは送り側でおとし、受け側は 0.1uF 程度でおとす。
 - 受け側だけで落とすことはしない。
 - プリント基板のグラウンドラインに入り口から出口までのコネクタラインは通さない。
 - コネクタは入り口と出口を低インピーダンスでつなぎシャーシに落とす。
     回路基板のグラウンドは別途シャーシに落とす。
 - star-quad cable を使ってシールド外皮を通るノイズ電流が作る磁束をキャンセルさせる。
  - 編組線のシールド線をつかう。 フォイルとドレイン線は使わない(不均衡ノイズの注入がある)。
  - ポリエチレンの方が容量が少ない、よって不均衡量の絶対値も少ない。
  - シールド編組線の断面積が大きい方が共通インピーダンスが小さいからノイズが入りにくい。



1.2 アイソレートできないとき
トランスでアイソレートできないときは、やむを得ませんから送り側と受け側の両方で落とすことになります。
しかし、上の原則のその他の部分はできるだけ尊重します。


2. 不平衡の時

2.1 トランスでアイソレートできるとき
平衡の時と同じ注意をしますが、平衡でキャンセルできるノイズ分はすべて甘んじて受け入れなければなりません。  まあグラウンドを浮かせておけるだけ幸いです。


2.2 アイソレートできないとき
これは最悪になります。
あらゆるノイズが入り込む余地がありますので、厳重に考察します。
受け側の初段は、参照点がシールド外皮になる配置にします。  その点は、高周波がケース内で暴れないように、コネクタに近い位置にすることも大切です。
機器の接続に関わるグラウンドラインは、通り抜けるノイズ電流に対して充分低いインピーダンスになるようなものにします。  具体的には、できるだけ機器を接近して配置し、線の長さを短くする、線の断線積を大きくする、線の幅を大きくしてリアクタンスを小さくする、 信号ラインとの間に磁束を通さないように同軸構造とする、ということです。  ステレオのように2信号を通すなら、2本のシールド線の線間距離をあけないで、撚っておくことも必要です。
機器の電源タップは同じ所から取り、間違っても単相3線の反対側の 100V を使ったりしないように注意します。




[余談]
音声信号領域で光接続があればだいぶ楽になるんですけどね。 そのためには標準化が要るでしょう。
例えば、2チャンネルで、16bit 程度で、サンプリングが 80kHz ほどで、、、、  ちょっと欲張ってますけど、そんなのがあれば、劇場や放送のブースや家庭のオーディオ機器は接続時のノイズ対策など考えなくても、らくらく行うことができます。

[余談2]
アイソレーショントランスは、この記事で述べた送り側も AC 電源を使うようなハイレベルの信号を取り扱うときは、タムラの TPs シリーズといったものを使います (==> THs/TPs シリーズ )。 シールドもしっかりしています。

右の写真は、何十年も前に買ったサンスイ A-603 で、ローレベルの 600 Ω平衡の信号トランスです。 キャノンプラグぐらいの大きさしかありません。  仕様は 600ohm CT 対 50kohm (1:10)  20Hz-20kHz です。  一次二次間にはスタティックシールドが入っていて、二次のコールド側につながっています。 コアとマグネティックシールドもそこにつないであります。  一次の各端子とシールド間の静電容量は 1KHz でおよそ 110pF で、三端子間での違いは 2pF 以下と、けっこういい特性です。  マイクロフォンから直接数十 m 引っ張ってきて、受け側の所に使います。
その当時はサンスイもずっと大型のハイレベルのトランスを売っていましたが、今は廃止されています。

[余談3]
上記の、「問題 A」 はだれでもすぐに思いつく問題でしょう。 大昔から認知されていました。
「問題 C」 は以前に書いた「銅には抵抗がある」の記事に追加できる例題ですね。 
「問題 B」 は長い間議論されてきました。 議論がやっと落ち着いたのはここ 10 年ほど前のことです。  私自身もこの理屈にやや疑問を感じる点もあります。 それは、同相で注入される信号レベルが問題視されるほどのものかどうかという点です。  でも、まあ多ければ問題なわけですから、それで良しとしましょう。