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インピーダンス変換器 ( GIC など) - その1


回路設計者はみんな常識として、「L は周波数が上がると正のリアクタンスが大きくなる」、 「C は周波数が上がると負のリアクタンスが小さくなる」ことを知っています。  半ば条件反射的にその性質を利用して回路を組んでいきます。  ところが、「周波数が上がると正のリアクタンスが小さくなる」 とか 「周波数が上がると負のリアクタンスが大きくなる」 といったものに出くわすとどうやって使ったらいいかアイデアがわかないものです。  もし使いこなせれば多方面でおもしろい回路ができるでしょうね。
今回は Generalized Inpedance Converter (GIC) などを取り上げてみます。
Negative Impedance Converter (NIC) はインピーダンスの正負をひっくり返すものです。  インピーダンスを逆 [ j X  を 1/(j X) ]にする場合はジャイレータ (Gyrator) と呼ばれます。

C を L に変換するケースについてはときどき目にしますが、「周波数に依存する負性抵抗」 なんて変なのが使えたとしたら、 あなたならどんな応用を思いつきますか?


右上の回路は非常に単純な NIC のインピーダンス変換回路です。 入力端から見込んだインピーダンス Z をちょっと計算してみます。

    Z = (e1 * Z1) / (e1 - e3) ...... (1)
    (e1 - e2) * A = e3        ...... (2)
    e2 = e3 * Z3 / (Z2 + Z3)  ...... (3)


(2)(3) から e2 を消して、残った e3 を (1) に入れると e1 が消えて Z が Z1, Z2, Z3 の関数として求まります。

       Z = - (Z1 * Z3) / Z2

この式をよく見ると、Z2 は分母にあります。  なので、ここにキャパシタを入れる上下が入れ替わって Z はインダクタになるのですが、全体にマイナスが付いていますから 負のインダクタになります。  おもしろいですね。 名前がありませんから負性インダクタとでも呼びましょうか。 記号もありません。  (注意: そのままではバイアスがないので動作しません)

Z1 か Z3 にキャパシタを入れますと、分子なのでキャパシタの時と同じように周波数が上がるとリアクタンス (の絶対値)は小さくなるのですが、頭にマイナスが付いているので負のキャパシタになります。  Backword Inductor と呼ばれることもあります。
右のグラフは、通常の L や C のリアクタンスと、それを上下ひっくり返した負性インダクタと負性キャパシタの特性を描いたものです。  (抵抗とキャパシタは 1 で正規化してあります)

さらに、Z1、Z2、Z3 全部を抵抗にしてやると負性抵抗になります。  入力を抵抗で分圧すると増幅できます。

さあ、不思議な素子が3つ手に入りました。 おもしろいアプリケーションを考えてください。

使う上では次の3つのことに注意してください。 これはこのページの全ての回路で当てはまります。
1.オペアンプの電圧範囲を超えたとたんに破綻してしまいます。  たとえば、負性抵抗を実現するために Z1 = Z2 = Z3 = R とします。 このときオペアンプの入力電圧範囲よりも出力電圧範囲の方が大きくなっています。  出力電圧は2倍ですから、電源の半分以下の入力しか扱えません。 
2.またオペアンプの反応速度を超えたら、期待した特性は出ません。  たとえば、Negative-C の回路でステップ応答を取ろうとしても、オペアンプの正負の入力が突然開くわけですから出力は飽和し、 スルーレートより速い反応はありません。  また保護回路が動作してめちゃくちゃになります。
3.オペアンプのバイアスを供給しなければなりませんが、これが往々にして特性を劣化させます。  例えば、上の Negative-L の回路はそのままではオペアンプの出力が上か下にへばりついてしまいます。  出力からマイナス入力へのフィードバックは C に並列になりますから、本来の C の特性とは違ったものになります。  これを別の見方からすると、L は直流で 0 のインピーダンスにもかかわらず Z1 という存在があるから、e3 は正か負の無限大にならねならない、 という矛盾がある。 それを解決するために、低い周波数では L の特性からはずれざるを得ない、というわけです。

[追記 2021.08.20]
C や L を素子に使った時は、回路全体が不安定となり動作しない可能性があります。
NIC は各国の大学の教科書や論文にも多用されていますが、例えば C を使って実際に動作させた例は見当たりません。



同様に、左のような回路を解析してみますと次式のようなインピーダンスになります。

  Z = (Z1 + Z3) + (Z1 * Z3) / Z2

ここでも Z2 が分母にありますから、そこにキャパシタを入れるとインダクタに化けます。  しかし、(Z1+Z3) の項が左にありますから、その余分のインピーダンスが直列につながったインダクタです。  これはジャイレータの一種ですね。 たとえば、Z1、Z3 を抵抗 (R1, R3) にして Z2 を C にすると
   Z = R1 + R3 + j ωC * R1* R3
になって、 C*R1*R3 が L に相当します。



それでは GIC の回路です。 右のような回路を GIC と呼びます。 Z を計算してみました。  結論だけ書きますと次のような式になります。

  Z = (Z1 * Z3 * Z5) / (Z2 * Z4)

Z2 と Z4 が分母にあり、全体にはマイナスの符号がありません。
分子側は2つ C を入れると虚数が -1 に変わりますのでちょっとおもしろい素子になりそうです。
分母側は逆数になりますのでジャイレータとして使えます。

第1例
ちょっと分母を C にしてみましょう。
 

Z2 か Z4 に C を入れると逆になりますから、 C で L が実現できることになります。  例えば Z4 を C4 とし、Z1、Z2、Z3、Z5 を R1、R2、R3、R5 とすると

   Z = j ω * C4 * R1 * R3 * R5 / R2

となって、そのまま L に置き換えられます。 R2 と R3 を同じにすると分母分子から消えて、L は C4*R1*R5 の値になります。  コイルと違って、タップを取ることができませんが、、、。
オペアンプの飽和がどのようになるか、e2 と e4 の電圧を計算してみました。  R は全て 1Ω、C は 1F としてみますと上のグラフのようになりました。 これから、低い周波数で非常に危険であることが分かります。  R1 があるということと、L は低い周波数でインピーダンスが低くなる、ということが矛盾するため、e2 を極端に大きな電圧に振る必要があるのです。  使用に当たっては実際の常数を使って、低い周波数で検証してください。

第2例
 

はじめの式の分母は2次式ですから、Z2 と Z4 両方に C を入れる(上の左の図)と虚数が消えて全体が負の値になります。

   Z = -ω^2 * C2 * C4 * R1 * R3 * R5

おまけに ωの2乗は残りますから、周波数依存のある負性抵抗となります。  周波数依存の負性抵抗のことを FDNR (Frequency Dependent Negative Resistance) といいます。 (そのまんまじゃないか)
グラフで描くと上の右の図のようになります。 (R と C は 1 に正規化してあります)

第3例
 

分子に2つの C を入れた場合は全体が負の実数になって、分母に ω^2 が現れます。 上の図は Z1 と Z3 を C にした場合です。

  Z = - R5 / (ω^2 * C1 * C3 * R2 * R4)

これも FDNR 周波数依存のある負性抵抗です。  R5 を R2 か R4 と同じ値にすると分母と分子から消すことができます。
グラフで描くと、ちょうど Z2 Z4 を C にした場合の逆数ですね。 この回路はオペアンプにとっては過酷な負荷になるような気がします。
この素子には名前が付いていて、「D 素子」 (D Element) と呼ばれ、フィルタに使われます。 記号は次のように書かれます。


右の二つの回路はどちらも二次のバタワース低域通過フィルタです。 同じ特性になることが理解できますか?  左の回路の各素子の S の次数を1つずつ落として右の回路にするのです。
L を R に、R を C に、C を D にというわけです。
あ、同じと言っても入出力インピーダンスは二者の間で異なっています。

この変換できる性質をうまく使うと、ラダー型の Elliptic Filter も比較的楽に設計できますね。  ==>ここ にその例があります。 (記事は無くなっています)
「"d-element" filter circuit」 でググると他のいくつかの回路が出てきます。



低周波のアナログエンジニアは L をあまり使いません。 できるだけ RC ですまそうとします。
電源回路のようにチョークにエネルギを貯める必要があったり、高周波のようにコイルが小さくてロスが少ないときは使うのですが、 低周波の小信号ではめんどくさいことが多いのです。

[参考]
インピーダンス変換器 - その2

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[余談]
厚い本を開いたままパソコンにデータを打ち込もうとすると左手がふさがってやりにくいですよね。 文鎮を置いても滑ってしまいますからちょっと困ります。 おもりの付いたクリップを売っていますが、両手で操作しなければなりません。

それで、下の写真のようなアイデアを思いつきました。 両側のおもりは魚釣り用の鉛です。 真ん中はナイロンのケーブルタイの太いやつです。 おもりに、通し穴を開けて接着剤とビスで固定しました。 鉛はちょっと衛生面で問題ですのでペイントでカバーして、さらに革で包んでいます。
とても使いやすくなりました。 さがしても同じようなものが売ってないんですよネ。

参照:Horowitz & Hill "The art of Electronics" pp.266-267, Canbridge University Press, ISBN: 0-521-37095-7