エミッタフォロアの出力インピーダンス
ときどきエミッタフォロアの出力インピーダンスを手軽に知りたいことがあります。この次に書く記事の中で、トランジスタのエミッタからのぞきこんだ時の特性が必要だったので測定しました。 副産物でエミッタフォロアの出力インピーダンスの実測値も出てきましたので、ここに書き留めておきます。
右のような回路で測定します。 コレクタ電圧は、損失によってチップの温度があまり上がらないように、低くしておきます。 逆に、あまり低いと VCB の逆バイアスが小さくてアクティブ領域の端っこに行ってしまいますから、 VCE が 2V 程度がいいでしょう。
R を取り替えながら VBE と Vout と R の値を測定しました。
都合があって、同じことを PNP の 2SA942 でも行いました。 ずいぶん古い東芝の石ですがまだジャンク箱に大量に入っています。
プロットを補完するモデルは
IE = I0 * [ exp {Vq/(λkT)} - 1 ]
としました。 ダイオードと同じ式です。 つまり HFE が一定だと仮定しているわけです。 これらの石ならそれほど間違いではないでしょう。 ここで、 IE はエミッタ電流、 I0 は飽和電流、V はベース・エミッタ間電圧、 q は電子の電荷、 λ はトランジスタの固有値(1 より少し大きい値)、 k はボルツマン定数、 T はジャンクションの絶対温度(周囲温度で代用) です。 周囲温度は 21 度Cでした。
C2240 と A942 で実測値にはあてまるように I0 と λを選択しますと次の表のようになりました。 I0、λ 以外は定数です。
| TR | I0 (A) | λ |
| 2SC2240 BL | 76E-15 | 1.015 |
| 2SA942 BL | 34E-15 | 1.025 |

C2240 の測定値とモデルを同じグラフ上に描き出しますと、右のようになります。
2SA942 の場合はもう 26.8mV ほど右に寄った絵になります(省略)。 もちろん極性は逆になります。
この青い線から値を抽出し、IE の変分で VBE の変分を割ってやれば、ベースの電位が固定されたときの交流出力インピーダンスが計算できます。
で、その結果は右のグラフのようになります。あ、これはモデルから出した値なので、大きい電流のところでははずれますから気を付けてください。 10mA までは大丈夫です。
エミッタ電流 (ほぼコレクタ電流と同じ) が 1mA の時に 28Ω になっています。
また、電流値が変わると大きく変動し、ほぼ反比例しています。 10 倍になると 1/10 になり、1/10 になると 10 倍になることが分かります。
2SA942 でもこのグラフはほとんど同じです。
よく考えてみますと、出力電圧はエミッタ負荷抵抗の両端の電圧であり、その電圧はエミッタ電流で決まります。 出力電圧の位置によってエミッタ側のインピーダンスが異なっているわけですので、偶数次歪みが入ることが分かります。
このことは、VBE-IE のグラフから、IE が大きいとき(出力が高い方に振ったとき)は VBE のドロップが大きくなるから上側へは伸びない。 だから偶数次歪みが入る、と解釈しても同じことです。
エミッタフォロアは比較的歪みは小さいのですが、究極まで押し進めるときはオープンループで使ってはいけません。 どうしても使いたいなら、比較的大きな電流値を持った定電流源を負荷にする手はありますが。
計算は省略しますが、FET のソースフォロアも、バイポーラのエミッタフォロアも、出力インピーダンスは 1/gm になります。
バイポーラでは gm はあまり意味がありませんが(下記補足2) FET の時は覚えておくと便利です。
[注]
この測定ではベース側のインピーダンスを 50Ωにしています。 低くした理由は、ベースが定電圧の時の特性が知りたかったからです。 さらに、計算時に VB ではなく VBE の変分を使っていますから、ベースから外を見たインピーダンスを 0 にしたのと等価になっています。
ベース側のインピーダンスが大きいときは IE の [HFE+1] 分の 1 の電流がベースに流れますから、ベースの電位が変動し、その結果エミッタ側の出力インピーダンスはもっと高くなります。 おおざっぱに言うと、上の値に対し、ベースから外を見たインピーダンスの HFE 分の 1 を足した値になります。
[補足]
I0 と λ を求めるときに、実測のプロットとダイオードの式をグラフ上で重ねていきます。 この時、10mA とか 100mA といった大きな電流のプロットは重要視しません。 理由は2つあります。
1.電流が接合面積に対して大きくなると、飽和現象が起きてプロットが右に寄ります。
2.接合部の発熱により温度が上がり、プロットが左に寄ります。
また 0.1uA といった小さい電流のプロットも重要視しません。 周りの電界を検波して、プロットが左に寄るからです。
[補足2]
バイポーラトランジスタの gm はあまり意味がありませんが、若干説明しておきます。
1.意味がない理由:
ベース・エミッタ間を電圧駆動することはめったにありません。 電流で駆動します。 でないと非直線性が出ますし、電圧が上がったときにすぐに飽和するか、コレクタ電流が大きくなりすぎて破壊してしまうからです。
2.それでも gm の値がほしい:
gm はコレクタ電流の変分(ΔIc)をベース・エミッタ間電圧の変分(ΔVbe)で除したものです。 コレクタ電流はベース電流に hfe を掛けたものですから、まずΔVbeを hie をパラメタとしてベース電流変分(ΔIb)に換算します。 それに hfe を掛けたものが ΔIc ですから gm は次の通りになります。
ΔIc hfe *
(ΔVbe/hie) hfe
gm = ------- = ------------------- = -----
ΔVbe ΔVbe hie
gm = ------- = ------------------- = -----
ΔVbe ΔVbe hie
小信号のトランジスタで考えますと、 hfe はまあ 200 - 300 程度ですが、その程度のトランジスタでは hie は Ic=1mA で 5 - 8kΩ 位です。 ですからこの例では gm は 40mS ぐらいです。 でかいですね。 この大きいことが上記の様にエミッタ出力インピーダンスが低くなる理由です。
hie は Ic (またはベースのバイアス点)で大きく変わりますから gm もそれにつれて大幅に変動します。 注意してください。
