MastHead

4つのシールド


ときどき以前の記事の中で「シールドしてください」と書いておきましたが、シールドって何なのか、ちょっとコメントしておきます。
シールドは、基本的には特定のノードを他のノードや電界、磁界から隔離して影響を受けなくする手法のことですが、それには4つの意味と方法があります。
-電界シールド
-磁気シールド
-電磁シールド
-ガード
です。
空間を通して2つのノード間に誘導が発生するには、電界で結合される場合と、磁界で結合される場合があります。 もちろん、変動する磁界が空間に存在する場合はそれに併せて電界が発生したり、その逆もありますから、一方だけで済まされないケースもあります。
空間だけでなく、絶縁体の表面には水の分子などのイオンを発生させるものがくっついていたり、物体の表面や内部の物性が電界や電流を誘導するものであったりすると、それを遮る構造がほしくなります。

最初に具体的な4つのシールドの方法について述べてから、後半でやや深い解説をしてみます。 うまく表現できればいいですけど。


電界シールド

ファラデーシールドや静電シールドとも呼ばれます。 目的は電界の遮蔽です。

ここでちょっと注意しておきます。 「静電」シールドと呼ぶと、静電気だけを遮蔽するかのように誤解が生じます。  ですから、できるだけ「電界」シールドと呼ぶ方がいいでしょう。 交流の電界であっても遮蔽しますから。

電解シールドは導電体の表面が等電位になることを利用します。 その結果、導電体に囲まれた空間は(内部に電界を発生するものが無ければ)電界傾度が無くなります。  発生源(以下 S)から受信先(以下 R)に至る電気力線を遮る形で導体を置いて、それをグラウンドに落とすか、または S か R を包む様にしてやります。
こうすると S と R が電界で結合されていたものを断ち切れるわけです。 この効果は非常に大きく、80-100dB 程度の減衰が容易に得られます。

空気の通路が必要なときは、穴を開けてやるか、目の細かい網を使うときもあります。  その場合は穴の近傍では電気力線が侵入していますので、そこにセンシティブな回路は置かない様にします。  また穴の大きさは遮蔽対象信号の波長に対して 1/10000 以下といった小さなものにします。


磁気シールド

S か R、 またはその両方を透磁率の高い物質で包んでやります。 目的は磁界の遮蔽です。
R に入ろうとする磁界を遮蔽物質の中にそらせてやることによって被害を受けにくくしようというわけです。

しかし、電界シールドで使った金属の導電率が 10^7 オーダで、真空の誘電率 8.8E-12 に対し 19 桁も開きがあるのに比べて、 透磁率の大きな物資といっても比透磁率で 10^4 程度ですから、遮蔽の効果は電界シールドとは全く違います。
まあ、どうしてもしようがない時には使う、ということです。

パーマロイとかミューメタルなどが有名どころです。 磁界の小さいところで使うことが多いので、初透磁率の大きい物質を探します。
Metglas という選択肢もあるかもしれません。
https://en.wikipedia.org/wiki/Metglas


電磁シールド

変化する磁界の磁束を遮る形で挿入し、シールド材の中に渦電流を起こさせて損失を与えようとする方法です。 目的は高周波磁界の遮蔽です。

渦電流を起こさせて損失を得るわけですから、そういった材料を選びますが、まあ一般的な金属も使われます。 どうしてもというなら表皮効果深さ (skin depth) の浅いものを探します。
  skin depth = SQRT[ 2 / ( 導電率 * 透磁率 * 角速度) ]
ですから、透磁率が高く、導電率が高い、というものです。
効果は厚さによって異なり、表面効果深さ相当の厚さ毎に 8.7dB 減衰します。

角速度の関数ですから、周波数が低くなると効果が無くなるのが特徴です。 まあ、1MHz 以上で考えてください。
MRI などで絶対に必要、というときは超伝導体を使います。

電界シールドと同様に穴を開けるときは大きさに注意します。 また、穴の近傍には磁界が侵入しています。
穴や隙間の大きさが 1/2 波長を超えるとシールドの効果は無くなります。 1/2 波長のスリットは理想的なアンテナです。


ガード

ガード電極は次の2つの内どちらか、あるいは両方を目的として使われます:
   - 絶縁体の表面漏れ電流の阻止
   - ハイインピーダンスノードの浮遊容量の減少

物の表面はいろいろな分子がくっついていますので漏れ電流を少なくしたい場合はまず第一に注意するべき所です。  ハイインピーダンス回路があるときは、それに沿って同じ電位の低いインピーダンスのランドを設けてやると、漏れ電流を吸収することができます。
また、浮遊容量が問題になる回路ではブートストラップの効果によって容量を小さくすることができます。

この手法は、シールドケーブルの容量を打ち消すことにも使えます。 2重のシールドにして、内側のシールドをガードに使う方法です。


応用

ちょっと気が付かないケースに、右の図の様な場合があります。

がっちり電界シールドを施し、裏面にはグラウンドプレーンまで設けてあるのですが、外部の誘導を拾っています。
原因は誘電体を介した電界結合です。

対策はすぐおわかりになりますね。 シールド境界位置に、表も裏も幅広いグラウンド面を設けてやるか、基板にスリットを入れてシールド板を通してやります。

インピーダンスが 20 - 50MΩぐらいになると 10cm 位離れたところのノイズを拾うこともあります。



----
ここから少し詳しい話をします。

上の4つの内、電界シールドと電磁シールドは同じ基礎理論に立脚しています。  電界/磁界が伝搬している空間を、空間が持っているインピーダンスとは異なったインピーダンスで不連続面を構成し、 そのインピーダンス不整合を使って反射 (Reflection loss) させてやる、というのがひとつ。  そして、シールド物質の中で電磁界を減衰 (Absorption loss) させてやろうというのが2つ目の理屈です。

これらの理屈をひもといていきますと、上に述べた電界シールドや電磁シールドが持っている特徴が分かってきます。
右の図は概念を示したものです。 左から、Wave impedance を持った空間を E-field と H-field が伝搬してきます。  導電体の表面で突然インピーダンスの不整合がありますので、かなりの部分が反射されます。  このロスを Reflection loss 1 とします。 これは、通常の伝送線理論の不整合と同じ考えの損失で、同じ式を使います。  ただし、空間のインピーダンスは信号源が磁界の時と電界の時とでは near-field での値が異なります。
残った部分は導電体に侵入します。  導電体内では、磁界の変化で生ずる渦電流損と電界起源の電流によるジュール損がありますのでそれを Absorption loss とします。 Ansouption loss は表皮効果深さ (skin depth) 進む毎に 8.69dB になります。
導体ので出口の面に到達した電磁界は、もう一度インピーダンス不整合に遭遇しますのでここでも反射を考えます。

Reflection loss 1 で信号元側に送り出された波は信号源やその他の金属に当たって再度戻ってくるかもしれませんが、そこまでは考慮しないことにします。  また Reflection loss 2 で戻った波は、左側の面でもう一度反射されますが、この量はもう非常に小さくなっていますのでこれも無視することにします。


まず空間のインピーダンスですが、右の図のようになります。
信号源が波長に対して十分小さなループのようなもので磁界を発生させているときはピンクのラインです。  逆に、波長より十分小さなダイポールから出ているなら青い線です。

例えば、水平の磁界が発生したとして、それが光速で空間を進むのですが、十分離れたある場所で観測したとしますと、右向きだった磁界が次第に弱まり、 半サイクルの時間の後には全く逆の左向きになります。  この変化に併せて(磁界の変化があるから)1/4 サイクル遅れた電界が発生します。  空間でこうして磁界が電界を発生させ、電界が磁界を発生させながら進んでいくのが電磁波です。

さて、今小さいループで磁界を放射したとします。 最初に生まれたての所では、磁界しかありませんので、インピーダンス (E/H) は非常に低くなります。  磁界を発生させる信号源の近く (near-field) では wave impedance は低いということです。
最初に電界が生まれる場所では、逆に wave impedance は高くなります。
1/4波長ほど離れたところでは磁界と電界の相互作用が始まっていますので、far-field に近い様相を呈します。


far-field で平面波が導体に遭遇したときの減衰は右の様になります。

先に述べた様に、減衰は2つの反射損 (Lr、 reflection loss) と内部での absorption loss (La) から成り立っています。  どちらも導体物質の性質で異なった振る舞いをしますが、そのとき影響を与える変数は導電率 (σ) と透磁率 (μ) です。
図で斜めの線は absorption loss です。 銅と鉄 (μr=500) の 0.1mm と 0.5mm の厚さを取り上げています。

reflection loss については、far-field では wave inpedance は電界起源の信号に対しても磁界起源の信号に対しても 376.73Ω ですので E、H どちらも同じ減衰をします。
水平の緑の波線は reflection loss を2つ合わせたもので、銅の場合です。 鉄の場合はこれより 30dB ほど下になります。
緑のカーブした実線は 0.1mm の銅で3つの損失を合算したものです。

低い周波数では absorption loss が小さくなることに注意してください。 特に非磁性体では特徴的です。
でも、reflection loss が大きいですから全体としては 100dB 程度のシールドは容易に実現できます。  --- far-field の時の話です。

Far-field Losses:
入力面での E-field の 透過率 = 20 * Log{ 2* Zm/(Zm + Zw)}   (dB)
入力面での H-field の 透過率 = 20 * Log{ 2* Zw/(Zm + Zw)}   (dB)
出力面での E-field の 透過率 = 20 * Log{ 2* Zw/(Zm + Zw)}   (dB)
出力面での H-field の 透過率 = 20 * Log{ 2* Zm/(Zm + Zw)}   (dB)
内部での Absorption Loss (La) = 8.69 * t / sqrt{ 2/ (ω*μ*σ) }       (dB)
ここで、
Zw は Wave Impedance(376.73Ω)、 Zm はシールド物質のインピーダンス(= sqrt(ω*μ/σ))、
ωは角周波数、μは透磁率、σは導電率。 sqrt{ 2/ (ω*μ*σ) } は skin depth。


near-field の時はかなり違った形になります(右図)。

この図は、reflection loss だけを描いたものです。 absorption loss は上の far-field と同じですので省略しています。  2*10^-8波長の距離での計算ですので、周波数によって寸法が異なりますが我慢してください。

near-field では電界起源の波と磁界起源の波では wave impedance が異なりますので、それぞれで違った減衰量になります。
H-field の減衰量は驚くほど小さくなります。 極端な場合はシールド材が空間と整合してしまって、減衰しないなんてこともあるようです。
absorption loss はもともと周波数が低いときは効きませんでした。  またここでも分かる様に、周波数が低いと波長で計った距離がかせげませんので磁界起源の wave impedance がとても低くなり、 導体のインピーダンスでは遮蔽できなくなってしまいます。 ですから低い周波数では磁界を遮ることは困難です。

現実的な解決策としては
  - 超伝導を使って金属のインピーダンスを0にする、か
  - μメタルの様に非常に透磁率の高い金属で、インピーダンスを低くする
といった方法しかありません。

Near-field losses: (距離は 2E-8*λ)
入力面での E-field の 透過率 = 20 * Log{ 2* Zm/(Zm + Zwe)}   (dB)
入力面での H-field の 透過率 = 20 * Log{ 2* Zwh/(Zm + Zwh)}   (dB)
出力面での E-field の 透過率 = 20 * Log{ 2* Zwe/(Zm + Zwe)}   (dB)
出力面での H-field の 透過率 = 20 * Log{ 2* Zm/(Zm + Zwh)}   (dB)
La (Absorption loss) は Far-field の場合と同じ減衰をする。

2E-8*λは 60Hz の信号源から 10cm 離れた場所に相当する。
Zwe は電界に対する Zw = 376.73*|1+1/(j*2*π*R)|/|1-1/(2*π*R)+1/(j*2*π*R)|、
Zwh は磁界に対する Zw = 376.73*|1-1/(2*π*R)+1/(j*2*π*R)|/|1+1/(j*2*π*R)|
R は信号源からのλ単位の距離。



Absorption loss はシールド体の内部で発生し、表皮効果深さの倍数で dB が増えていきますので、厚さに比例した dB 減衰値が稼げます。
それに対して、reflection loss は境界面で発生しますので、シールド体の枚数が効いてきます。  特に、低い周波数では磁界を遮ることは難しいですから、ミューメタルをその他の物質とラミネートして使う場合があります。



[まとめ]

1.電界シールドはアルミ箔1枚で十分。
  薄い金属箔で低い周波数から高い周波数まで、効果の高いシールドが実現できます。

2.磁気シールド、電磁シールドは低い周波数では効果がない。
  磁気シールド、電磁シールドは比透磁率が極端に高い磁性金属材を選んで
  ラミネートして我慢します。
  あるいは超伝導体を使います。




[余談]
near-field と far-field の区分位置については諸説ありますが、それは使う人次第です。
wave impedance のグラフで見えるように、ある距離のところでまっぷたつに切れるものではなく、次第に入れ替わるものです。  まあおおざっぱに言って 0.1λ 以下なら間違いなく near-field と言っていいでしょうし、0.5λ 以上なら far-field といえます (長いアンテナを取り扱う人からは異論もあるでしょうが)。
その中間は遷移域です。 おおざっぱな解がほしいときは λ/(2π) を取ることが多いようです。  そこは3つの漸近線の交点になります。 私は感覚的にλ/4 を頭においています。

[余談2]
同軸線などの伝送線では、終端が解放されていますとそこで正側の反射が起こり電圧が2倍になります。
上の解説の中の、出口面での反射でも同じことが起き、電界は 6dB ほど上がります。 ですから本当は減衰ではなく増加になります。  入口面での減衰の方がはるかに大きいので合計では問題にはなりませんが。
far-field での磁界についてはちょうど逆で、入口面では増加し、出口面でぐっと減衰します。  ものすごく接近したときは wave impedance が極端に低くなって逆転する現象があります。  上の near-field のグラフで左下の部分でオレンジの破線が見えるのがそれです。

[余談3]
上の計算では2回目の内部反射以下を省略しましたが、導電率の低い物質で計算するときはちゃんと等比級数の和を取らなければなり ません。  でも、複素数の等比級数の和ですからちょっとやっかいな計算になります。 私はやっていません。 ;
Shield についてもっと詳しく探求したい方は Schelkunoff の戦前の業績までさかのぼることになります。