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R と C だけで増幅する


一般的には R と C だけでは増幅することはできないとされています。 私もそう思っていました。 大学3年までは。

ホルブルークの 「エレクトロニクスエンジニアのためのラプラス変換」 の本を読んだとき、びっくりしました。
R と C だけで、ごく狭い周波数帯ですが、増幅していたのです。 ただし、あまり利用価値はありません。 まあ RC ネットワークの周波数特性を求める練習問題としていい題材ですので取上げてみます。

図1がそれです。 その右のグラフの通り、ω が1付近で 0.7dB の増幅をしています。 しかし位相は遅れるばかりですので発振には使えません。
 



それをもう少し改善したものが図2です。 この回路は増幅率が 1dB ほどあります。


それでは、図2の回路の入出力伝達関数を解析してみましょう。
まず、入力が3つに分散していますから、それぞれの入力から出力までの伝達関数を書出し、重畳定理を使って重ね合せます。  分解した3つの回路は図3の通りです。



上の3つの回路と、それらを重ねた伝達関数をそれぞれ書下すと次のようになります。


E1      (1/SC)+R//((1/SC)+(R//(1/SC)))
--- = ----------------------------------
Ein     R+(1/SC)+R//((1/SC)+(R//(1/SC)))


E2      ((1/SC)+R//(1/SC))//((1/SC)+R)           R
--- = ----------------------------------- * ----------
Ein     R+((1/SC)+R//(1/SC))//((1/SC)+R)     (1/SC)+R


E3      (1/SC)//((1/SC)+R//((1/SC)+R))          R//((1/SC)+R)           R
--- = ----------------------------------- * --------------------- * ----------
Ein     R+(1/SC)//((1/SC)+R//((1/SC)+R))    (1/SC)+R//((1/SC)+R)     (1/SC)+R


Eout     E1+E2+E3
---- = ------------
Ein        Ein


ここで、// は電気屋特有の演算子で、並列のインピーダンスを表します。 また、S はラプラスの演算子ですが、ラプラス変換になじんでいない人は、単に jω で置換えていただいて差支えありません(この場合は)。 j は虚数単位、ωは角周波数(2πf)です。

ずいぶん複雑な式のように見えますが、単に電圧をインピーダンスで分圧しているだけの式です。
S を jω とすれば、最後の Eout/Ein が周波数ドメインの複素入出力伝達関数になるわけです。  昔はこのたくさんの文字列を整理していく計算をしたものです。  分母、分子とも S の3次式程度になります。 そこからさらに分母を有理化して実数項と虚数項を出せば、その絶対値が増幅率、 アークタンジェント(実軸からの回転)が位相として計算できます。
しかし、現在ではシミュレータがありますのでこんな式をたてる必要もなくなってきました。
今回は、上の式をそのまま Excel に入れて複素計算をさせてみました。  IMPRODUCT とか IMSUM とか IMARGUMENT いった関数が使えますので比較的簡単でした。

R=1Ω、C=1F で正規化しました。
2時間ほど Excel と格闘して、結果が次のようになりました:


みごと ω= 0.408 rad/sec のところで移相が 0 になり、ゲインもそこで 0.3dB ほどあります。 ソースフォロアでもかませてフィードバックすれば発振するでしょう。 ちょっと実験してみました。

 

FET(2SK30) ではソースインピーダンスが高すぎてだめだったので、バイポーラにしました。 ベース電流を小さくするので BL を使っています。
ベースの 560 オームは寄生発振止めです。 これがないとベースリードの持っているインダクタンスの効果で、数十MHzで寄生振動します。 (下に解説)
この回路で目的周波数で爽快に発振し、飽和して下側がクリップしています。
発振周波数は、理想的には f=1/(2*π*SQRT(6)*R*C) すなわち 650Hz ですが、1u の進み分が効いたのか若干高くなっています。

(なお、ホルブルークの本では  f=1/(2*π*SQRT(6*R*C)) となっていますが、これは間違いです。)



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余談ですが:
上の計算では、S を jω とおいて計算しました。
Ein は一般的にはサイン波を使いますから、そのときは S を jω と置くことは問題ありません。

しかし、S のままにしておいて、Ein の信号波形(サイン以外でも)の方も S で表せば、Eout も S の関数となり、過渡現象を取り扱うことができます。 サイン波だけでなくもっと一般化したラプラス領域での入出力伝達関数といえます。
[追記 2016.3.11] その例は「フィルタのステップ応答の計算の仕方」に掲載してあります。

もう一つ余談です:
寄生発振については右の図を見てください。
0.01u 3つと 1u のキャパシタは、VHF では Xc が小さくなってショートしたと見なされます。 しかしそのリード線はある程度のインダクタンスを持ったままです。
かたや、ベースエミッタ間にはジャンクション容量があり、また、エミッタの外には出力ラインが持つ浮遊容量があります。
この3つの LC は立派なコルピッツ回路を形成していて、トランジスタが適当な周波数応答をするなら VHF で発振します。
それを止めるためには共振回路に直列に Q を落とす抵抗を入れればいいのですが、本来の特性を落としてはいけませんから、元の回路のインピーダンスの高い部分で、かつ、寄生共振回路のループ内に当たる R の点に入れるわけです。
ベースをキャパシタで落としたエミッタフォロアはたいてい発振しますので注意してください。