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高感度でダイナミックレンジの広い光検出回路


光ファイバの部品などを検査するとき、ごく細い窓を通って、光が出てきているかどうかを検出したいときがあります。
LED の光源を使って、光を通した後で目で見てもいいのですが、工場などでは環境が明るいため作業性が悪くなります。  そこで、赤色の LED と赤に感度のあるフォトトランジスタを使って、導通テスタを作ってみます。  ただそれだけではおもしろくないので、ある程度減衰量がわかるようにして、さらにレンジの切り替えをしなくてもよいように、 4桁ほどのダイナミックレンジを確保します。



非常に高感度に作りますのであちらこちらに注意することが出てきます。  またダイナミックレンジが広いため、直線性にも気を配ります。


まず受光素子から考えます。 フォトダイオードでもいいのですが、感度の見地からフォトトランジスタにしました。  指向性が鋭く、赤色に感度のあるものをざっとみたところ TPS601A と TPS611A が目にとまりました。  601 は下が金属ですので遮光がしやすそうです。  感度は 650nm のところでピーク (800nm) の7割まで落ちますが、悪くはありません。  超高輝度の赤色 LED に 20mA を流して光らせ、接触位置まで近づけますと光電流は 30mA 流れます。  使用方法からみて最大 10mA で回路を作ることにします。 データシートを見ますと、直線性の上限もその程度までのようです。
フォトトランジスタは赤外にも感度がありますし、ICEO もありますから、 受光しなくても電流が流れます。  これを暗電流といいますが、当然温度の関数となり、影響を受けます。  ですから何らかの形で補償することを考えます。 今回は参照素子を導入し、ブリッジを組んで暗電流分を相殺します。
ロットの同じものを5つほど購入し、あらかじめブレッドボード上で 1kΩ 2つとブリッジを組んでペアを捜します(右図参照)。  うまくすると温度の影響を 1/100 程度まで下げることができます。 1/20 は楽です。

下の図は TPS601A の特性で、東芝のデータシートから転載しました。


光電流対照度のグラフをよく見ますと、1mW/cm^2 以下では直線なのに対し、2 から 4mW/cm^2 のところでわずかに上に ふくらんでいることが分かります。 (もっと上では飽和して頭打ちになりますが。)
この上へのふくらみは直線性を阻害します。  これについてはどこにも解説はありませんが、私なりに考えてみました。  おそらく電流が多くなって、バイアスの 3V との積が 30-60mW とかなり大きくなっていることが原因だと考えます。  おまけに測定用のタングステンランプの光が強くなって、レンズで集光された結果チップにかなりの熱負荷を与えています。  この2つの原因でチップの温度が上がり、電流の増加となったのでしょう。
ですから、この影響を軽減するにはトランジスタのケースが金属であることを利用して、銅でヒートシンクを作って取り付ければ 良くなるかもしれません。  まあ気持ちの問題でしょう。 チップとケースは絶縁されているようで熱伝導はあまり期待できませんが。
それより、消費電力を減らし、同時にトランジスタの VCE/Ic カーブの左上の肩が少し下がることを利用することにして、VCE を 3V でなく 2.2V に下げることやります。 これで少し改善されるはずです。



次に対数変換素子を考えます。
3-40 年前までは対数変換のためにわざわざログダイオードという名前の付いたものが売られていました。 今では通常のスイッチングダイオードや小信号トランジスタでも、漏れ電流が極端に少ないものが出回り、特別のものを買う必要がなくなりました。
まあそれはともかく、素子を選択します。 シリコントランジスタの BC ショートと E の間の特性を使いましょう。 

選択基準ですが、このつなぎ方ではトランジスタはアクティブな領域にあって、コレクタが電流を受け持ち、 その HFE 分の1のベース電流で BE 間の電圧が決定されます。  従って、低い電圧でコレクタがアクティブ領域にあるものを選びます。 そうすると必然的に ICmax の大きさが 10mA の30-40 倍程度のものになります。
また、ICBO と IEBO の少ないものを選びますが、まあ小信号低周波トランジスタなら似たような特性です。

2SC2001 は ICmax が 400mA で VCEsat も小さくて良さそうでした。 余裕を見て、5桁のダイナミックレンジをねらって 0.1uA まで挑戦してみました。 通常の測定ではだめなので、しっかり腰を据えてブリッジを作って計りました。

結果は右の通りです。
最初 0.2uA 付近から左下の直線性が失われてずいぶん苦労しました。  うーんと考えて、やっと 0.1uA を実現しました。 決め手は 50MΩ 以上になったときの電界シールドです。  周りの電界を拾って、ダイオードが検波していました。
変換は 0.1uA-10mA に対して 0.38V-0.675V という値です。 
0.1uA が実現できることは分かりましたが、今回は 1uA 以上で使います。 0.44V-0.675V の範囲です。

ついでに、R を 1MΩ にして、10 個ほどのトランジスタを調べてペアを1組作っておきます。  このとき、指で触っていますので、離して5分ほど待ってから測定します。 0.2mV 以内のものが見つかるでしょう。

0.235V のスパンですから、1mA のメータに直列に入れる抵抗はメータ自身の抵抗も含めて 235Ω です。 



増幅用のオペアンプですが、絶対に必要な条件は入力バイアス電流が 1uA より数桁下であることです。  バンド幅は要りません。 できればオフセット電圧が 3mV 以下のものがほしいところです。
ナショセミの LF411/LF412 が目にとまりました。  JFET 入力ですからバイアス電流は温度で大きく変わりますが、室温で 200pA 程度です。  オフセットは内部で調整済みなので 1mV 以下のようです。
今ひとつの要件は、光センサからの電流が、全部ログダイオード1を通ってからオペアンプに吸い込まれることです。  このため Sink 電流は 10mA 以上が条件となります。  LF411 は高温でも15mA 以上ありますから大丈夫です。

ただ、若干問題があります。 外部の回路は 5V あればすべてが動作するのに対し、このオペアンプはかなり高い電圧を要求します。
- 上のレイルから 1.5V 下がった位置以下の入力を求めます。
- 下のレイルから 3.5V 上がった位置以上の入力を求めます。 内部の回路の要件で、避けられません。
- 内部のバイアスはゼナーで作り出しており、Vee から Vcc の間は 12V 以上であることを要求します。

2つ目の条件を考えると、フォトトランジスタのバイアスは 2.2V ですから、下側のレイルを使うとやっかいです。  で、上のレイルから受光素子をバイアスすることにします。
また、電源の下半分 (7V) の電圧は使わないのですが与えておくことになります。 もったいないですが仕方ありません。
出力電流はメータが左に振り切ることがあり、かなりの電流が流れます。  ですので、LF412 では2つ分の消費になりますからちょっと電力が大きくて心配ですので LF411 を2つ使ってください。  規格内ではありますが念のため。

Log D1 に逆並列に入っているダイオードは、光の入射がないときにオペアンプ出力が + 側に振り切ってしまうのを嫌うためです。  逆方向の漏れ電流が小さいものを採用します。 また、光が当たるとまずいので熱収縮チューブで遮光します。

まあまあ満足できるログアンプ(対数増幅器)ができました。

送信側の LED は波長が 650nm の赤色です。  年月が経って LED が劣化すると光度が下がりますので電流は弱めの 8mA として 15mW しか喰わせていません。
Dark Test のスイッチは DUT を入れたときに光漏れが無いことを確認するために入れています。  プッシュスイッチがいいでしょう。



キャリブレーションは次のように行います:
メータ
指示値
(mA)
受光素子
電流
0 1 uA
0.25 10 uA
0.50 100 uA
0.75 1 mA
1.00 10 mA
  1. 電源を入れて5分待つ。
  2. 部屋を暗くする。 受光部を完全にふさぎ遮光する。
  3. 2.2MΩのジャンパをつなぎ、R1 を回してメータを 0 に合わせる。
  4. ジャンパを抜いて 220Ω 側につなぎ R2 を回してフルスケール (1mA) にする。
  5. ジャンパを抜く。
これで、メータ上で 0 から 0.25mA 毎に受光素子の 1uA、10uA、100uA、1mA、10mA の値が変換されたものになります。 できればきれいなパネルを作成するといいでしょう。
光が入っていないときは、メータは左に振り切っています。 メータに並列に入っているダイオードはメータ保護用です。



実装の時の注意を書いておきましょうか。 このあたりがアナログ回路の特徴でもありおもしろさでもあります。
  1. P点は漏れ電流に細心の注意。 Q 点も同様。 できれば浮かせて配線しグラウンドや 12V の線とは隣り合わせにならないようにする。 どうしてもそうなるときは、間に1本線を入れ、それを 9.8V のライン(A)につないでおく(ガード電極)。 部品の表面の汚れがないようにして、接着剤や半田レジンが付かないように。 ロジンはもってのほか。 とくに P 点は多くの部品がつながるのできちんと守ることが大切。 
  2. 高感度なのでフォトトランジスタは光漏れに敏感。 ソケットカバーの 1um ぐらいの隙間でも命とりになる。 シャーシケースは不透明で、隙間がないものを選ぶ。
  3. ソケットは工夫がいる。 ごみを掃除できるように取り外しができること。 これは送信側の LED も同様。
  4. キャリブレーション時は暗い部屋で。 ジャンパは最後に抜くことを忘れないように。 
  5. キャリブレーションは温度が平衡になる時間を待つ。
  6. 2つのフォトトランジスタは熱結合させる。 参照側は完全に遮光する。 2つはバランスしたものを使う。  最初にブリッジを作って測定し、暗電流のペアを捜す。 
  7. 2 つのログダイオードは特性をそろえる。 瞬間接着剤でくっつけて熱結合させておく(右の写真)。 (実はこの熱結合は効果はありますが、完全ではありません。 理由は、Log D1 の方は大電流を扱うのに対し Log D2 の方は常に 1uA しか消費しないせいです。 チップの消費電力がバランスしていません。)
  8. 遮光にシリコンゴムを使うなら電極に触れないこと。 水の分子が入り込む。
  9. 送信側の LED からケース内部へ光をばらまかないこと。
  10. P、 Q は静電シールドがいる。 電源を外付けにして全体をシールドしても良い。
  11. この Op Amp にさわるときはあらかじめ体の静電気を放電しておく。 または ESD 放電ケーブルを手首に着けて静電気を逃がして作業する。 JFET なのでゲートが破壊されるのを防ぐため。

あ、バイアスに使っている 1.5k に 1/2W を指定しているのは表面積を大きくして温度変化を逃げるためです。 ほかの抵抗は 1/4W で十分です。
だいぶ注意が要りますね。
レンジ R3
(100)
R4
(220)
R5,R6
(2.2M)
1uA-10mA
4桁
100 220 2.2M
1uA-1mA
3桁
56 2.2k 2.2M
0.1uA-10mA
5桁
180 220 22M
0.1uA-1mA
4桁
100 2.2k 22M

チャレンジする方は 5 桁をやってみてください。 2.2MΩ が左右にありますが、それを 22M に変える必要があります。  そして R2 に直列に入っている 100Ω は 180Ω にしてください。
逆に、最大電流を 10mA でなく 1mA にするには、ジャンパに付いている 220Ω を 2.2kΩ にします。  100Ω は 56Ω にします。 もちろんどちらの場合もキャリブレーションはやり直しです。

残念ながら光入力量に対する校正ができておりません。  本来でしたら uW で目盛りを打ちたいところですがワットメータ(それも 650nm に於ける)が手近にないので申し訳ありません。



[余談1: 実装の勘どころ]

回路図が与えられてそれを実装する際に各種の制約条件が出てきます。
上に書いた 「実装の時の注意」 がその最たるものですが、回路図という最大の制約条件を絶対的に守り、またこのような実装上の注意事項の条件を全部満足させながら製品を仕上げていくのは、一種のパズルを解く時の難しさとおもしろさがあります。 ある時は両立しないような要求が対立して、順位付けをして妥協しなくてはならないケースもあります。

実装を手がけるものとしては、
 1.どれだけ多くの有意な条件を短時間に思い浮かべられるか。
 2.それらを羅列して、正当に順位付けができるか。
 3.実装手段をたくさん手元に準備できているか。
 4.できれば条件すべてを満足する実装を思いつくことができるか。
ということが勘どころになります。

実装の前段階の回路設計についても同じようなことがいえます:
 1.実現すべき性能を把握しているか。
 2.部品の誤差、電圧の変動、温度変化による部材のパラメータ変化などの
   制約条件をどれだけたくさん思い浮かべられるか。
 3.性能を実現する回路をどれだけたくさん手元に準備できているか。
 4.各条件の、製品性能への影響を推測でき、順位付けができるか。
 5.評価手段を適切に持っているか。
といったことが勘どころです。


[余談2]

ログダイオードについて:
PN 接合を流れる電流はホールとエレクトロンが運ぶのですが、ほっておいても広がっていく「拡散」によるものと、 電界を加えたときにそれに引っ張られる「ドリフト」によるものとの2つの原因があります。  どちらもホールとエレクトロンが担体ですから4つの合計になります。
拡散の方は想像すると、熱で振動している原子にはじき出される電子やホールが電流を運びますので、 温度の関数になるだろうというのは分かります。
で、もうひとつ、それら2つの電流の原因は「アインシュタインの関係式」という条件で結びつけられていますので、 ドリフトの方も温度の関数になります。
一般に使われている、与える電圧と電流の関係式は次のようなものです:

     J = Js * [ exp ( V * q / (λ * k * T) )  - 1 ]          (A/m^2)     ...(1)

ここで、V は N を正、P を負としたときの外部電圧、q は電子の電荷、k はボルツマン定数、 T は部材の絶対温度、J は P から N 方向への電流、Js は飽和電流(後述)、 で、λ は接合の状態などによって決まる値で、1-2 程度で、理想は 1 です。  電圧の向きは電子の電荷が負なので逆を向いています。
この式の中に温度 T が入っていて、ちょっと目には電圧と温度について指数関数のきれいな式のように見えますが、 どっこい Js 自体が実は温度の関数になっていて一筋縄ではいきません。  実のところ温度に関しては (1) の中に見える T よりは、Js に隠れている T の方が支配的です。  温度補正はかなり神経質に行いますし、必ず同じ性質を持ったペアを使います。

(Js はここではあまり掘り下げませんが:
    Js = q * ( Dp * p2 / Lp + Dn * n1 / Ln )       (A/m^2)
Dp と Dn はホールと電子の拡散定数、p2 は N 内小数キャリア密度、n1 は P 内小数キャリア密度、Lp と Ln は少数キャリアとしてのホールと電子が再結合までに動く平均距離です。 少数キャリア密度は熱でたたき出される担体ですから温度依存です。
市販の小信号シリコンダイオードですと Js は 25℃ で 0.1pA とか 10pA とかいった程度の値ですが、仕様書上はずっと大きな値、例えば 100nA とかが書かれていることが多いので、仕様書を見て選択することは難しいでしょう。 自分でテストして選択します。)


それで、 (1) の式の対数を取ってみると次のようになります:

    (J + Js)/(Js*S) = exp [ V*q/(λ*k*T)]     Sは接合面積
    ln { (J+Js)/(Js*S) } = V*q/(λ*k*T)
    V = (λ*k*T)/q * ln { (J+Js)/(Js*S) }          ...(2)

J が Js に比べて十分大きいときは、この (2) 式は電流 J の対数が電圧として現れることを示しています。 
Js は逆方向の漏れ電流として正体が現れますので、「IEBOの小さいもの」を選ぶわけです。 もし6桁に挑戦するなら、0.4V 程度の逆方向の電圧をかけて 100℃ の周囲温度に置いて、ミリボルト計で電流を計って選別するといいでしょう。 非常におおざっぱに言って漏れ電流は 5K 上がる毎に2倍になりますから、高温にすると4桁ほど大きくなって検出しやすくなります。