可動コイル型の電流計
アナログでよく使われるのが可動コイル型の電流計です。 デジタル型に比べて高価だし重いのですが、低い周波数での電流のふれなどがよくわかりますので、捨てがたいものがあります。
前回のパワーサプライのパネルに付けていたので、思い出してこの種のメータを使うときの特徴を羅列しておきます。
実は問題があったのです。 ケースが磁性体でした。可動コイル型のメータは、磁界の中にコイルを置き、コイルと磁界との間に起きる力と、ひげゼンマイの反発力とのバランスで振れの量を指示させる原理です。
メータのパネル上に右のような記号がありますが、隙間から覗いてみればコイルとポールピースが見えますからすぐ分かります。
スタティックバランスと姿勢:
コイルと指針はピボットかトートバンドで支えられていますが、この回転軸回りのスタティックバランスはどれも完全というわけではありません。 バランスがとれていないと、針を上にしたときに左か右に傾くことがあります。 これは針を下にすると逆に振れますから分かります。 また針を左になるように水平にすると上か下に振れます。 これも針を右にすると逆になります。厳密な指示値がほしいときは、自分で中を開けてバランスを取るように改造するしかありません。 バランサを少し曲げたり、エポキシ接着剤をほんのわずか重りとしてバランサにくっつけたりします。
また、(バランスが完全でないときはとくに)取り付けの姿勢も大事です。 パネル面に記号で示されています。
平均値によるふれ:

可動コイル型はその原理から言って電流の平均値に比例した振れになります。 このことから、交流を扱うときは誤解がでることがあります。
1mA フルスケールの感度の電流計に 100VAC の目盛りを打ち、全波整流して 100kΩ のシリーズ抵抗を入れて 100VAC をかけてみます(右図)。
(ダイオードは順方向電圧降下無し、逆方向リーク無し、電流計の内部抵抗は 0、 入力はサイン波、と仮定します)
針は 100V を指すでしょうか? 答えは No です。
約 90V を指します。 これは 100VAC が実効値(rms)で 100 であるのに対し、振れは平均値で動いていることが原因です。 このときは抵抗を 90kΩ にして、目盛りは 1mA フルスケール位置に 100V と書き込みます。 目盛りは実効値、振れの量は平均値というわけです。 詳しくは下の「注」 を読んでください。
そう、この実効値目盛りの平均値メータにサイン波でない電流を流したときはもっとおもしろいことになりますね。
感度:
電圧計も電流計も 300uA 程度から 1mA 程度の感度の物が多く作られているようです。 これは主として製造性によるものです。 もっと感度が高くなって 30uA という物もありますが、値段が上がります。
電圧計にするには、直列に抵抗を入れて目盛りを打ち直しています。
電流計で、裸の感度よりも大きい電流にするには並列に(低い)シャント抵抗を入れてバイパスさせますが、 バイパス量が大きいと製造時の誤差が大きくなりますから、一度シリーズに数Ωの抵抗を入れてからシャントします。 そして目盛りを打ち直します。
私はよくやるのですが、目盛板は生かしたまま、中のシリーズ抵抗やシャント抵抗を取り外し、 裸の感度とコイル抵抗を精密に測定してから、別途オペアンプで駆動する回路にすることがあります。
ダンピング:
高感度の電流計を購入すると端子間がワイヤでショートされています。 これは輸送中に振動が与えられるとコイルが振れ、それに応じた電圧が発生し、それが振れを抑制する方向の電流となって動きが押さえられるためです。
アナログ式の回路テスターを持ち歩くときは、最大電流測定の位置にダイヤルを合わせておくのもそのためです。
逆に、電圧計の接続でシリーズの抵抗がありますとダンピングがされませんから、ステップの電圧(電流)を与えたとき、 針はオーバーシュートしたあと、振動的に目的の値に収まります。
これを嫌うときは、シリーズ抵抗をはずして、オペアンプを使って低い電圧と駆動インピーダンスでメータを振らせます。
私は、むしろ逆で、少々オーバーシュートがあっても早い指示があった方が被測定回路の振動が発見しやすくなりますから、 ややアンダーダンプのままで早い収束をねらった回路にします。
フリクションと遊び:
軸受けには摩擦と遊びがあります。 このため、上がりと下がりで指示値が異なるヒステリシスが発生することがあります。 メータを爪の先でこつこつたたいていませんか?
最近ではピボットを避け、トートバンド型にしてこの問題を回避している物が出回っています。
スティクション:
一度スケールオーバした針をゆっくり戻していくと、ストッパにくっついたままスケール内に戻ってこないという、 イライラさせられる現象です。
特にひげゼンマイの力を弱くしてある感度の高いメータによくあります。 針が端まで行ってストッパにぶつかりますが、ストッパと針とのファンデアワールス力によるスティクションです。
これは困りものですが、私は中を開けて、ストッパをひねって角で受けるようにし、接触面積を小さくする工夫をします。
まだやったことはありませんが、フッ素コートもいいかもしれません。 衣服の防水のスコッチガードを使うというアイデアですが。 どうでしょうか。 もちろん工業的にはフッ素のイオンインプランテーションになるのでしょうが。
リニアリティ:
指示の直線性はメータの構造次第ですので、悪いときはどうしようもないですね。 目盛りを打ち変えるしかないでしょう。 ポールピースの形状で工夫しているメーカーもあります。
磁界(近接磁性材):
近いところに鉄などの磁性体があるとコイルを横切る磁束が少なくなって、指示値が下がります。

昨日の記事の写真ではケースのふたが鉄板でした。 右の図の青い部分です。 これの影響は 2% と大きくなっています。
この誤差には苦労したことを覚えています。 正確に合わせたはずのメータがいつの間にか狂っているのです。 狂い量を計って、誤差を補正する様回路を変更すると今度は大きすぎます。 何度かやるうちにふたを閉めたときと開けたときで指示値が異なることを発見したのです。
皆様も気をつけてください。
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[注: 実効値と平均値]
直流で 1V の電圧を 1Ω の抵抗にかけると 1W の熱が発生します。
では、交流をかけて直流の時と同じようにこの 1Ω に 1W の熱を発生させる(=仕事をさせる)には何 V をかければいいでしょうか?
交流ですから瞬時瞬時に電圧が動いています。 ここで 「交流電圧」 の定義が必要になります。
とりあえず、サイン波に限定します。 そして、その最大値を Emax としましょう。
瞬時電力 p は角度が π/2 で Emax になるサイン波の瞬時電圧と抵抗 ( 1Ω )で計算できます。
ここで ω は 2π/t です。
p = E^2/R = { Emax * Sin(ωt) }^2 / 1 = ( Emax^2 / 2 ) * { 1 - cos (2ωt) }
平均電力 P はこの瞬時電力 p を 1 サイクル T 秒にわたって平均すればいいのですが、 1/2 サイクルの平均でも同じことです。 そこで、 p を 0 から T/2 まで積分して時間で割ってやります。
T/2
P = { Emax^2 / (2*(T/2)) } * [ t - sin(2ωt)/(2ω) ]
0
= (Emax^2 / T) * ( T/2 - 0 )
= Emax^2 / 2
これが 1W ですから、 Emax は √2 です。
で、ピークが 1.414V になるようなサイン波交流電圧を 1V と定義しますが、この値を 「実効値」
(rms = root mean square 2乗して平均して平方根をとったもの) といいます。
Emax に対して 0.707 倍です。一方、可動コイル電流計は(電力ではなく)電流に反応しますから、電流の平均 I を計算してみます。 上の実効値 1V の交流を 1Ω に流したときの電流です。
T/2
I = { Imax / (T/2) } * [ - cos(ωt)/ω ]
0
= 2 * Imax / π
です。 2/π という値、すなわち
平均値はピークの 0.637 倍になりますから、実効値の 0.707 よりも 1割小さい値です。
交流電圧計を作るときはくれぐれもご注意を。
[余談]
まだ子供の頃、高価なメータを間違えてつないでコイルを焼き切ったことが2度ほどあります。
高校生の頃、電源用のシリコンダイオードが市場に出回り始めました。 順方向の電圧降下が 0.6V ほどであることが分かりましたので、高感度メータを買ったときは、すぐ 2 本のダイオードを逆並列接続して メータに並列に半田付けしてしまうことにしています。 0.2V 程度までは指示値への影響はありません。 この対策のおかげで、まちがえて大電流を流しても振り切れるだけで、コイルが焼けてしまうことはなくなりました。 何度か助かっています。
そのころ買った、50uA の高感度メータを使ったテスターも、このおかげで今でも現役で使っています。
