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マイカ キャパシタ のミクロの変化


今日は軽い話にします。 シルバーマイカキャパシタという部品があります。
これは高周波特性が良く、温度係数が非常に小さいことから、安定な周波数を要求される発振回路に使われることがあります。

しかし一つだけ注意してください。

図1は、結合を弱くしたハートレイ(Hartley)発振回路と、同じく結合を弱くしたコルピッツ(Colpitts)発振回路で、クラップ(Clapp)回路と呼ばれるものです。
(真空管でなくとも、FETでも同じように回路が作れます)
周波数を決めるものは共振回路ですが、その変動を決める要素はたくさんあります。 そのなかで、LC に外付けになっているものは、電圧の影響や温度の影響があるから、できるだけ排除してしまおうという、という考えから結合を弱くしているわけです。
こうすれば、変動要因は L と C それ自体が大勢を占めるわけですので、ここに集中して工夫を凝らせばいいわけです。

私は、コルピッツの変形でバッカー(Vacker)回路というのが好きでしたが、同じ考えが適用されていました。  バッカーはトポロジー的にはクラップと同じで、グラウンド点の選択が異なるだけです。 
当時はトランジスタが一つ二つ出始めた頃で、まだ真空管が全盛でした。 日立から出ていた「ニュービスタ」と呼ばれる小指の先ほどの真空管で VFO を作ったのを憶えています。

では、その LC 回路についてです。 
L はボビンに巻くか空芯ですが、どちらにせよ温度が上がると熱膨張で寸法が大きくなる方向です。 これは、インダクタンスが正の温度係数を持っていることを意味します。  その係数値はコイルの形状やボビンの材質で異なります。

温度が上がっても周波数を安定にさせるためには、L の温度係数の逆の係数を持つキャパシタを使うのが常套手段です。 
エアトリマは正の係数を持っています。 セラミックキャパシタは、その組成によって様々な特性のものがありますが、概して非常に大きな負の係数のものが多くあります。  ポリスチロールキャパシタは負です。 シルバーマイカはわずかな値で、個体差によって正のものと負のものがあります。

これらをうまく組み合わせて、そのときのLの温度係数を消すような、適当な負の係数を持ったキャパシタをでっち上げるわけです。  (もちろん熱容量が異なりますから温度変化の過渡時まではだめですが)


ところで、マイカには金雲母(muscovite)と黒雲母(phlogopite)がありますが、金雲母の方は G がとても小さく、損失が 0.0001-0.0004 という非常に優れた特性を持っています。 この剥離片に銀のペーストを付け、高温で焼き付けてキャパシタにした部品を「シルバーマイカキャパシタ」と呼んでいます。

私も VFO に使いましたが、とんでもないことが起きました。

何週間もかけて温度変化に対してほとんど動かない VFO を作ることができました。 スチコンとシルバーマイカを組み合わせた構成でした。
しばらくして、電信の信号がおかしいとの指摘を受けました。 モニターしてみると、確かにおかしいのです。  数秒から数十秒の間隔で、周波数が跳ぶのです。 差は100Hzぐらいです。 7MHz 帯ですから 14ppm 程度なのですが、突然上がったり、又戻ったりを繰り返します。

この原因究明は一月ぐらいかかりました。 部品を取り替えては様子を見ることを繰り返し、ついにマイカの不良を突き止めました。
雲母片は剥離をするのですが、キャパシタの中でナノレベルの機械的な不安定性があったようです。
これが、何度もの半田付けによるサーマルサイクルの影響で顕在化してきたものと思われます。 マイカの一層の厚さはおよそ1ナノメートルだそうです。


この問題は、その後、もう一度遭遇することがありましたが、そのときはすぐ解決しました。
それ以後、マイカキャパシタはほとんど使わなくなりました。



[余談]
図1に示した回路は VFO(Variable Frequency Oscilator) と呼ばれるものですが、PLL が普及しない頃は、周波数を安定化させるためにみんな苦労をしました。
たとえば、C は大きな共振電流が流れるため(また、真空管回路では電圧が高いので)Cの内部で自己発熱による若干の温度上昇があります。  これは周りよりも早い時定数を持つので電源投入直後のドリフトとして現れ、時間的な調和を持った温度補償ができません。  この対策には、C をいくつかの素子に分けて電流を分散させる、といったことをやります。  電流に対して体積を大きくして、発熱量に対する温度上昇をゆっくりにし、表面積を大きくして外界との熱交換を増やし温度変化を押さえるわけです。  今でも使えるアイデアです。


[余談2]
上でインダクタンスの温度係数は正であると述べました。 負のものがどうしてもほしいときは、実現できないわけではありません。

図3にその例を示します。
上側の図では、非磁性金属のコア、例えば真鍮、がねじののびと共にコイルの中に入り、渦電流で磁束を遮ることによってインダクタンスを小さくします。  ねじが真鍮ですと、アルミナに比べ 3-4 倍程度の熱膨張をします。 インダクタンス変化量は L の長さや、コイルの密度や、コアの断面積などの関数となります。
下側の例では、フェライトが抜けていく方向にありますからインダクタンスが小さくなります。

ですが、上側のケースでは、Q が若干悪くなりますし、下側の例では保持機構が弱く、かつフェライトの温度特性も持ち込むので、どちらもあまり感心した方法ではないと感じます。

私は、やむをえず下側の方法を使ったことが一度だけあります。