GHz 帯でのセラミックキャパシタ

GHz 帯では、キャパシタはもはやキャパシタではありません。
右の図は Murata のチップセラミックキャパシタの GRM21 シリーズのデータシートから借用した周波数特性ですが、この 2mm といった小さな形状のものでさえも自己共振点が 1GHz 以下の場合があることを物語っています。
その周波数以上では、キャパシタはインダクタとして振る舞います。
(このグラフについては若干の疑問もありますが、とりあえず信用して話を進めます。)
いまや、GHz の機器は身の回りにありふれていて、先端技術は 30-50GHz に達しようかという時代のなかで、この周波数特性はゆゆしき事態です。
このことを少し考えてみましょう。
光ファイバは 10GHz の製品が出始めています。 また、UWB の技術はせっせと開発が進んでいます。
こうした製品の中では、カップリングキャパシタやデカップリングキャパシタは 5GHz-30GHz といった信号を扱います。
[キャパシタの一般特性]
キャパシタには3つの基本的な要素が含まれています。
- キャパシタ本来のキャパシタンス C
- ストレイインダクタンス (ESL: Equivalent Series Inductance) L
- 損失を等価の直列抵抗で表したもの (ESR: Equivalent Series Resistance) Rs

C=1 L=1 に正規化して周波数特性を計算してみると右の図の様になります。 Rs として 5 の時と 0.2 の時をプロットしてみました。
直列共振点で Rs の値に接近しますが、Rs はセラミックキャパシタの場合は Xc(=Xl) よりも低い場合がほとんどですので、オレンジ色の様に鋭いディップの形状になります。
これが最初に紹介した Murata のデータシートにも現れているのです。
[問題点]
共振周波数以下では本来のキャパシタンスの特性ですから何の問題もありません。
Rs が小さいときは、共振周波数付近ではインピーダンスは低くなって、回路上では問題なく動作するでしょう。 その少し上でも大丈夫です。
しかし周波数がどんどん高くなると、インダクタンスが優勢になり、カップリングキャパシタはもはや信号の反射素子に化けてしまいます。 またデカップリングキャパシタはノイズをバイパスすることができなくなります。
プリント基板のラインや、スルーホールのインダクタンスは共振点をさらに引き下げ、この事態を、より悪化させます。
[解決策?]
「じゃあ小さい容量のものを使えばいいじゃないか」 って?
そう、共振点は少し右にずれてくれますね。 でもうまくいきません。
デカップリングは低い周波数成分を扱いますし、パワープレインはもともとかなりインピーダンスが低いですから大容量のキャパシタが必要です。
さらに、例えば光ファイバの機器は NRZ の信号を取り扱いますが、この信号は非常に低い周波数のスペクトルを含んでいます。 スクランブルやコーディングの方法によって異なりますが、100kHz といった周波数も通過させる必要のあるときがあります。 ここのカップリングキャパシタは大容量のものが必要です。 ちなみに 50Ω ラインに対し、1/10 の 5Ω のリアクタンスを 100kHz で実現するには 0.3uF になります。 15Ω でも 0.1uF ですね。
小さい容量で問題を解決することはできません。 もっているインダクタンスの値が問題なのです。
「じゃあ、小さいやつと大きいやつをピギーバックで重ねたらいいじゃないか」って?
これは無造作にやりますと並列共振を起こして、もっと悲惨な結果をもたらします。 詳しくは次回の記事で書きます。
「じゃあ、もっと小型のチップキャパシタを使えばいいじゃないか」 って?
そう、これはいいアイデアです。 調べてみましょう。 0.6mm*0.3mm (以下 0603)の寸法のものが GRM03 として使われ始めました。 Apple の iPod nano の中にも多用されています。
仕様書のデータから算出しますと GRM21 シリーズの L 分が 1nH であるのに対し、GRM03 では 0.47nH 程度になります。 この値は 10GHz では (2*π*f*L=) 30Ω のインピーダンスになります。 まだだめですね。
さらに小型の GRM02 という 0402 のものが出始めています。 大容量のもの(B素材)が入手難ですけれど。 これの L 分は 0.23nH 程度のようです。 なんとかがまんできるでしょうか。 10GHz で 15Ω ですね。 50Ωラインに対して無視できる数字とは言い難いところです。
0.4mm の SMD をマウントできるところは限られていますので注意してください。
「他のメーカを探そう」 って?
Rohm の MCH03 という 0603 のものがあります。 この L 分はカタログシートから読みとると 0.07nH になるようです。 しかし、しっかりそのことは記述されていませんので真偽のほどは分かりません。
うまくすると 10GHz ぐらいまで使えそうです。
太陽誘電の EMK03 シリーズは周波数特性が公開されていません。 TDK もそうです。 松下はマイクロ波用がありません。 京セラの 0603 の CM03 は 0.7nH 位のようで、Murata より少し悪くなります。
Murata の CL シリーズは「超高周波用」と謳っていますが、単層で小さい容量である上、肝心の周波数特性のグラフの提示がありません。
え? そう、そもそも Murata のデータシートに記載されている共振周波数は、寸法から考えて低すぎるかも知れませんね。 どのような測定方法だったんでしょうか。 プロービング方法もふくめて興味があります。
米国ではどうでしょうか?
ATCeramics という会社から Ulta-Wideband Capacitors というシリーズが売られています。
http://www.atceramics.com/products/540l.asp (旧品種となったのでリンクを削除 Jan.2010)

S21 を見ますと、25GHz あたりから上の特性が少し暴れていますから何となく気がかりですが、ロスの絶対値はいい値ですし、 この周波数になりますとネットワークアナライザのプローブ自体の特性もこの程度暴れるでしょうから問題視することはできないでしょう。
フットプリントは 1mm*0.5mm で 0.1uF まであります。
構造は2階建てのピギーバックですが、次回に書く予定の並列共振をうまく避けているようです。

AVX という会社の Maxi Broadband DC Block Assemblies もかなりいい特性です。
これも2段スタックになっています。
AVX は右の図のような構造のものも出しています。 工夫の跡が見えます。平べったくして磁束のリラクタンスをあげてインダクタンスを少なくし、さらに、相対する電極を接近して出して電流通路を短くする事によって極端にインダクタンスを下げています。
この特性と形状はデカップリングに使うときはよく適合します。 しかし、Bias-T のカップリングに使うには形状に少し問題があるでしょう。
平べったくする原理は次の通りです。

[これでいいのか、日本の製造業]
日本のチップキャパシタは、寸法のことばかりを追いかけて小型化を推進していますが、キャパシタ本来の目的が何かということを忘れています。
時代の先端は 10GHz を超えようとしています。 これを取り扱うキャパシタを作り、その性能をきちんとデータシートに載せてほしいものです。
この件に関していうと、時代が求めているものは:
- 大きい容量で
- GHz がまともに取り扱えて
- S21 と S11 の特性が公開されていること
というものです。 現在供給されているものは、一カ所に Q の高い共振点があり、その上のことは何の考慮もされていません。 測定条件・環境も公開されていません。
日本の製造業は先端技術では(進んでいるものもありますが)全体としてみると、まだまだ米国や欧州に後れを取っています。 改良と量産で利益を追求することはいいことですが、先端技術の種まきをしておかないと新興諸国にすぐ追いつかれてしまいますよ。
[余談]
アメリカで 0402 とか 0603 と言ったときは 0.4mm*0.2mm や 0.6mm*0.3mm のことではなく、0.04inch*0.02inch や 0.06inch*0.03inch のことです。 日本では 1mm*0.5mm、1.6mm*0.8mm の寸法になります。
[9月28日追加記事]
上記の記事で、グラフに疑問がある旨書きましたが、ずっと疑問に思ってきました。 非常に小さい部品ですし、多層構造になっていますからインダクタンスは 1nH もあるはずが無いのです。

それで、右の概念図のような測定用のジグを作ってもらい、測定してみました。 DUT は Murata の GRM15 という 1mm*0.5mm の大きさで、F 材を使った 0.1uF のものです。
ジグの特性を排除するように校正を行い、ネットワークアナライザで読みました。
8.5GHz まで、ATC には及びませんが、がまんすればなんとか使えることが分かりました。
下の図は 1MHz から 8.5GHz までの S11 と S21 の LogMag です。
S21 で 6-7GHz に 0.5dB の減衰が見られます。 これは内部インダクタンスと浮遊容量との並列共振であることが容易に推察できます。
S11 を見ると、予想通り 35MHz ほどの所に直列共振があって、そこから上はインダクティブであることが分かります。 インダクタンスは 0.2nH 程度で、公表されている値の 1/5 ぐらいです。

どうやら、メーカのデータシートに載っているカーブには測定ジグのインダクタンス分が含まれている様な気がします。 そういうわけですので、使用するキャパシタを自分で測ってから、採用するかどうかを決定するしかないようです。
何とかしてほしいですね。
[2006年7月26日追加記事]
ATC から 545L というタイプが発売されました. 0.1uF の特性は次の様なもので,40GHz でも 0.2dB です.

[2014年7月24日追記]マッチング・キャップ
前々から書こうと思っていたことです。
デカップリングの時には上記の AVX のように端子を交互に出すやり方は効果がありますが、BIAS-T のカップリングに使うには配置することが不可能になってしまいます。
そこで、マッチングキャップとでも名付けられる方法を考えました。
デバイスが持っているインダクタンスと、グラウンドプレインへのキャパシタンスをうまく調和させて、マイクロストリップラインに溶け込ませてしまおうという考えです。
右図の H1、H2、H3、W をうまく調整すれば、特性インピーダンスを 50Ωにすることができるはずです。
もちろん、H1 と W は H3 の関数になってしまいますから、それに合わせた何種類かの形状のものを用意せざるを得ませんが、 まあ 3 種類ぐらいあればほとんどの場合は適合するでしょう。
マウント時に接着剤が必要ですから、その誘電率と損失についても指定しておきます。
背が高くなってグラウンドとの間の容量が大きくなりますから、接続部分ではラインの方の幅を小さくしてラインとグラウンドとの間の容量を下げておきます。 ラインとデバイスの両方を考慮に入れて、電磁波の進行方向に微分したときに、どの微少部分でも、Z0 の構成要素のインダクタンスとキャパシタンスが調和できるように設計します。
こうすると、おそらく数十GHz になっても問題は無くなるでしょう。
