エミッタ・ベース降伏はゼナーとして使えるか
小信号 NPN トランジスタのエミッタ・ベース間の降伏はシャープなアバランチの特性を持っていて、定電圧ダイオードそのものです。 この特性を定電圧ダイオードとして使うことができそうな気がしますし、現にそれを推奨している記事をときおり見かけます。
しかし、これには大きな落とし穴があります。 今日はそれについてお話しします。

まず特性を見てみましょう。 例によって 2SC2240 の特性です。 中央が原点で、右上が順方向、左下が逆方向です。 X 軸は 1目盛り 2V、Y 軸は 1目盛り 0.5mA です。
8.9V できれいなブレークダウンが起きているのがわかります。
この特性は下の回路で取りました。 BE の順方向で 2.2uF を充電し、12V の 2.8 倍の逆方向の電圧を発生させて EB 間にかけ 10k で電流を検出しています。 トランスは 5V 程度で良かったのですが、たまたま机の上にあったものが 12V でした。
最近の小信号 NPN トランジスタの製法はほぼどのメーカも同じなので、どれをとってもこの特性が見受けられます。
仕様書上で見分けるには VEBmax が 5V とか 6V とか低い電圧が書いてあることで分かります。ジャンク箱の中から手当たりしだい 20 種類ほどを見てみましたが似たようなものなので、9つだけ写真をお見せします。 目盛りは変えていません。

原理は定電圧ダイオードと同じなので、その代用として使えそうです。 私も実験の時に適当な値のゼナーダイオードがないときにトランジスタの中から探して使うときがあります。
しかし、、、、
これを量産の製品に使うことはお勧めできません。
理由は、信頼性の保証がなされていないからです。 もし使われるのなら、相応のサンプル数を取って加速試験を実施してからにしてください。 温度と時間だけでなく、サーマルサイクルと電圧のサイクルも必要と思います。
これはゼナーとして使う目的に限らず、EB ブレークダウンを起こさせて使うようなケースはすべて含みます。
何でこんなことを言うかといいますと、私自身が辛酸をなめているからです。 70 年代の初期ですが、私の設計した製品で、定電圧ダイオードがだめになるものが続発しました。 定格を守って使っていることは確認していました。 幸い早い時点で気がついたので大事に至ることがなかったのですが、そのとき思い返すと実験中にも1つだめになったのがあったのです。
故障のモードははっきり覚えていませんが、今、現象を思い出して考えるとおそらくショートだと思います。
ある半導体メーカから定電圧ダイオードの廉価版として売られていたデバイスでした。 当時、形状から考えて多分小信号トランジスタのコレクタリードを切断しただけのものであろうことは推測できるものでした。 そのトランジスタの型番も、形状や EB 特性から想像できました。
その後まもなく販売を中止してしまいましたが、きっと信頼性の問題に気がついたのだと思います。
[2020.04.29 追記]
この問題の根本原因は次の通りです。
5V 程度に EB の最大定格を持っているトランジスタは、エミッタのドーピングを最後に行っています。 ベースもエミッタの横に、表面に出ています。 この構造(Surface Zener)では EB Break (電子雪崩)は、表面で、電界が集中するエミッタとベースの接触点から始まります。 シリコン結晶の表面は界面なので電子やホールが余分にあるため、必然的に汚れが存在します。 また、その部分の強い電界によって電子が加速され、覆っている酸化物層(SiO2)に打ち込まれて蓄積されます。 このため、ゼナー電圧の長期のドリフト(Zener Walkout)や信頼性問題を引き起こします。
この問題に対処するためには、雪崩が始まる PN 接合の位置を表面から遠ざけて内部に置く方法がとられます。 これを Buried Zener といいます。 これは上記の製法のトランジスタの構造ではできません。
