非線形回路にキャパシタを入れるときは注意

非線形素子に交流信号を入れ、その周りにキャパシタを入れると、直流、あるいは元の交流信号よりももっとゆっくり変動する信号、が現れることはご存じのことです。
図1はその代表的な、整流回路です。 なーんだと言わないでくださいね。 これから面白くなります。
この整流回路は、入力の交流信号のエンベロープが変化しなければ、R で低下する電圧を常に補って、少しリップルがある波形になります。
しかし、入力がダイナミックに変動していると必ずしもエンベロープに追随するわけではありません。 出力は、上昇はすぐですが、下降はエンベロープの落ちる速度と、CR 積で決まる時定数(ときていすう)のどちらが速いかの勝負です。
前置きはそのぐらいで本題です。
図2は、B 級のリニアアンプの原理図です。 (原理だけですので、温度補償、過入力保護、中和などは入れていません)
C は、これが無いと Q のベースをドライブするときに R2 がじゃまになってしっかりドライブできないので入れたつもりです。
しかしこれは失敗です。
B 級ですので、Q のベース電流は信号強度に合わせて大きくなったり小さくなったりします。
連続して大きな入力があったとしましょう。 電流はたくさん流れますから、(R1//R2*平均電流) の分だけ C の電圧は低下し、安定します。 そうです、ベース・エミッタ間の非線形特性があたかも整流素子の様に働いたのです。
C がケミコンやタンタルなら極性が反対になって、劣化は避けられないでしょうね。 ですからグラウンド側は特定の定電圧ノードにつなぐ必要がありそうです。
でも問題はそれではありません。
信号は、例えば SSB (Single Side Band) や AM (Amplitude Modulated Signal) を扱っていると、振幅が常に変化しています。 いま連続した大入力から突然小さくなったとします。
C には定常よりかなりマイナス側に振った電圧が残っており、突然小さくなったからといって、追随できるわけではありません。 およそ C*(R1//R2) の時間遅れで追いつこうとします。 それまでのあいだ、Q は深いバイアスから回復過程にあります。
ですから、下の図の右側のように小信号の最初の部分が消えてしまいます。

ゆっくり考えると分かることですが、なかなか気が付きません。 図2では C を付けず、R2 を小さくしてそこに大きな電流を流しておいてください。 また、温度補償のために、ダイオードを使うのもいいでしょう。 ですが、最大ベース電流よりもおおきく流しておくように。
図3は、とある有名な高級アンプを作成するメーカーが作っていたアンプの回路原理図です。
高価な超高級アンプで、当時マニアやオーディオ評論家と称する人たちから絶賛されていた製品です。
早速購入して分解し、回路を調査しました。 図はそのパワーアンプ部分の最終段(の原理)の一部です。
定電流源(実際にはブートストラップ)からの電流は無音時にはバイアスダイオードを通っていますが、大信号が来て、SP 端子が上いっぱいまで振られることがあると、電流源からの一部は上側ダーリントン回路のベース電流に消費されます。 ダイオードのバイアス電流が小さくなって、若干の電圧低下があります。
信号がもとにもどったとき、C がなければ、直ちに回復しますが、C があるとその回復が遅れ、上に書いた現象と同じことが起こります。
ただし、上の例ほど大きな影響はありません。
アンプの特性である全高調波歪率の測定時は定常信号を与えますので、この問題による異常は発見できません。 また混変調歪率でも同じように発見することはできません。 現在に至るも、この現象を的確に把握する測定項目は確立されていないようです。
この例でもわかるように、一流のエンジニアでもうっかり忘れてしまう注意事項です。
非線形回路、キャパシタ、B/C 級、大信号に続く小信号 --- この組み合わせをお忘れなく。

次に挙げる例は上のケースとはちょっと違っていますが、全波整流回路です。
右の回路はオペアンプを使った低周波領域での全波整流回路で、交流電圧の絶対値の、 時間での平均値を出そうとするものです。
BW の広いオペアンプが LM6364 しか手元になかったのですが、これはゲインが5以上の時に安定な動作をします(と仕様書に書いてあります)。 というのはうそで、この回路の様にしてループゲインを高周波で上げてやると、入出力ゲインが1でも安定になります。 ちょっと高周波でのノイズの点で不利になりますが、まあ大きな振幅のところで使う分には問題ないでしょう。

余談はそのぐらいで、本題ですが、これの高周波特性を見るために 10kHz の矩形波を 入れて、プローブ点1、2でスコープしてみます。 一応+側の整流波形はきれいに出 ているようですが、プローブ1で、下側にひげの様なスパイクが見えます。 何でしょうか。 それで、パルスの周波数を 1MHz にして拡大したのがその下の図です。
アレアレ、プローブ2の+側の立ち下がりがなまってしまっています。 これでは平均値をとろうとしても、+の成分が多く見える結果になりますので高い周波数では問題です。 プローブ 1の下のスイングもかなりオーバーシュートしています。 このオーバシュートが先ほどのひげです。
種明かしをすると、これはオシロのプローブの容量 (12pF) の問題です。
+に振るときは、ダイオードを 通してオペアンプの低いインピーダンスで浮遊容量を充電するのですが、下がるときは
10kΩ で放電しますから、少なくとも 120nsec のカーブになってしまいます。 ブレッド
ボードで実験していますから、実際にはさらに大きな容量になります。マイナス側のオーバーシュートは、その残電荷を補償しようとして、オペアンプがマイナ ス側のダイオードを通して一生懸命インバート入力端子に負電圧を送り込もうとして いる結果です。
ですから、ダイオードから出てきたところに容量をかませると、本来の測定ができなく なって誤差がどんどん膨らみます。
