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大信号を扱う Dual TR の信頼性


今日の話は理論的な根拠のない話です。 しかし経験的には、とてもよく当たっていますので参考にして下さい。

1970 年代後半から 1980 年代に作られた高級なオーディオパワーアンプについてです。  高級なパワーアンプというのは大抵出力が大きく設計されています。 ですから、電源電圧は 50~60V という高い電圧を使っています。 
また、このころのアンプは出力は直結で、初段は差動増幅が使われています。

この差動増幅に使われるトランジスタは、手っ取り早くオフセットを少なくするために、1チップで2つのトランジスタを形成させた Dual Transistor が使われることが一般的でした。
このトランジスタはよく壊れます。 回路解析をしても、壊れる理由がよく分かりません。  定格をはみ出す可能性について、ずいぶん長い間頭を悩ませてきましたが、いまだ結論には至っていません。  しかし、よく壊れるというのは事実ですので、ここでご紹介します。

こわれると、差動が動作しなくなりますから、使用中に壊れたときは「ドカン」という大きな音がして、最悪のときはスピーカが破損します。  電源投入時なら、保護回路によってスピーカの接続がおこなわれずに、音が出ません。  こんな現象のアンプの修理を依頼されたら、私はまず出力端子電圧を測り、0V 付近にないことを確かめてから、初段の差動周りの電圧をチェックすることにしています。

以下、経験した内のいくつかです。 回路図はパワーアンプ初段のキーポイントだけを描いてあり、かなり省略しています。


私の試作機での事故
非常に初期の差動増幅用の Dual TR で、モトローラ(当時)の MFC8000 という石です。 2組入っています。 面白そうだったので使ってみました。 右のような回路で、うまく動作していましたが、何台か試験している内に突然動かなくなるものが出ました。

調べると、内部でショートしている事が分かりました。
これは、プリント基板にディスクリートトランジスタもつけれられる様にして量産時には 8000 を使わなくすることで乗り切りました。

高級機ではありませんでしたが、当時は直結回路が珍しい時代でしたし、Dual TR の出始めの頃でした。 今はもう売っていません。


パイオニア M-25 での事故、2回
パイオニア M-25 というのは、外観がとてもきれいで、AB級の 120W 出力のパワーアンプです。
これが、あるとき「ドッカーン」とスピーカから大きな音が出て昇天しました。

分解して調べると、この初段 2SA798 がショートしていました。 Dual TR はヤバイと感じていたので、手持ちの高耐圧でローノイズ PNP を選別してペアを作り、取り替えました。

ところが、2年ほどのちに反対側のチャンネルで同じ問題が起こったのです。 このときは Dual TR に対しての不信感は確信的になりました。 パイオニアからメインテナンスマニュアルを入手して回路をじっくり読んでも壊れる理由はなかなか思い当たりませんでした。 ひとつだけ気が付いたことは、A798 が耐圧が 50V なのに、64V で使っていることです。 これかもしれません。 (でも、選別して使うことはよくあることなので、これが原因とは限りません。) 追加の保護の対策として思いつくのは、ベース・エミッタに逆方向の保護ダイオードを入れておく、ということぐらいでした。

余談になりますが、この M-25 にはそのほかにもたくさん問題がありました。
 - ドライバのトランジスタが破壊し、パワー段までやられてしまった。
 - 設計上の問題で、パワートランジスタがフルスイングに近いところで寄生
   発振していた。
 - スピーカリレーの接点は4つ並列接続なのだが、それでも接触不良となっ
   ていた。 (小さい音が時々歪んでいたので気がついた)
 - 保守マニュアルに実際とは異なった抵抗値が記載されており、パイオニア
   のサービスマンがそれを知らずに調整した結果、ヒートシンク温度が 100℃
   近くまで上がった。
 - そのほか、、、、、、
結局、すべて自分で設計し直して、作りかえました。 以後、無事故です。


ソニー 333ES での事故
ソニーの 333ES はプリメインの高級機です。 友人から 「電源を入れてもランプが緑にならなくなった。  修理してくれ」 ということで預かりました。

調べてみると右チャンネルの出力が -56V に振り切れていました。 また、図中の 4.7M の左側の電圧は +51V でした。
プリント基板のトレースをしながら回路をたどっていき、2SK389 のショートを見つけました。

このトランジスタはジャンクション FET ですので、オフセットのことを考えますと、できれば Dual 型のほうがいいのですが、すでに製造中止で入手できません。
やむなく手持ちの 2SK30A を 20 個ほど測り、ペアを作って交換しました。 温度的にはそれほど影響は受けませんので問題ないでしょう。

回路的には、カスコードのエミッタで上を押さえられていますし、ソース側も 7V のゼナーで制限されているはずですから、FET の各端子間に大きな電圧はかからないはずなのですが、、、、、

電源投入の過渡時を考慮しても大丈夫なはずなんですけどねえ、、、、例えば 3.6mA の定電流源の立ち上がりが遅いと、C945 が上の端まで上がって、K389 のドレイン・ゲート間に 50V ほど電圧がかかる瞬間はありますが、定格程度です。 パワースイッチを2度押しした場合を考えても大丈夫そうだし、、、

余談ですが、ソニーの回路は、部品配置も含めて高い周波数に対する配慮が欠けているように感じます。 この機械でも、初段と2段目を載せている基板と、主としてダーリントン段を載せている基板が離れたところにあって、NFループは大きな面積を作っており、ループ内に別の大電流が作る磁束が入っています。 こういった配線上の配慮がない傾向は昔から変わりません。


オンキョー M-506 での事故
オンキョー M-506 というのは、とても大きい図体にでかいメータが2つ並んだ超高級機です。
同じく「電源を入れても Ready にならない」と言われて持ち込まれたものです。

開けて出力端子を見ると、左チャンネルが +60V になっています。 このアンプは非常に修理の作業性のよい構造になっていました。  すぐに、右図のカスコードトランジスタとして使われている Dual TR のリークをみつけました。  耐圧が 100V のトランジスタですが、この段は常に高い電圧がかかっていますから、長期信頼性の問題だったのでしょう。

この場所は Dual TR とするべき積極的な理由がありませんので、通常のディスクリートの小信号トランジスタで置き換えました。

でも、まだ入力部の差動に使っている Dual TR が残っていますから、気分的には火種を抱えたままのアンプでしょうね。  できれば予防的な措置をとっておきたいところです。
オーナーの話では、以前にも2-3回「ドカン」といって壊れて、オンキョーで修理してもらったとか。



繰り返しますが、Dual TR がよく壊れる原因は見つかっておりません。  しかし、これだけよく出くわすことを考えると、何らかの理由があるはずです。
設計者としては、使わなくて済むように、回路を工夫した方がいいのではないでしょうか。