トランジスタ A 級増幅回路の誤解
最初にお断りしておきますが、このページに「A級アンプの回路」という検索で訪問いただく方がたくさんおられます。 A級というのは、信号電圧をバイアス点の上側下側の両方に振っても等しく反応するように能動素子をバイアスする、というバイアス方法を意味しており、 回路形式とは直接の関係はありません。
以上、前置きでした。
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この右図の回路は、トランジスタの回路を習うときに、最初の方に必ず出てくる A 級エミッタ接地増幅器の回路です。
ですが、この回路には大きな問題があります。
トランジスタは基本的には電流増幅素子です。 ところが、この回路の入力には電圧信号源が接続されている、という理不尽な使い方がなされています。
この回路のように単独で A 級増幅をさせることはまれですが、他のトランジスタと組み合わせて前段から A 級増幅段をドライブするとき、インピーダンスが低いまま入力すると同じ問題が出ます。
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実験してみましょう。

その回路に具体的な定数を入れます。 コレクタ電圧は定石通り Vcc とエミッタ電圧の中間に取ります。
Ic はいくらでもいいのですが 1mA でやってみましょう。
40dB 強のゲインがありますので、信号源はアッテネータをかませます。 信号源インピーダンスはちょっと高くなりますが 100Ω にしてみました。
下の写真の緑が入力(の逆相)で、黄色が出力です。 一目瞭然ですね。

黄色のカーブが大信号で上側に伸びないのです。 レイルまでは 4.6V の間隔があるのですが、2.5V 使っただけでもう頭打ちになっています。
この原因は、ベース・エミッタ接合のダイオード特性です。 この接合にはコレクタ電流とベース電流の合計が流れますが、電流が大きいときはダイオードの微分抵抗 (hie) が小さい部分を使いますから、 (信号源抵抗が小さければ)大きい微分電流が流れて増幅率が大きくなります。 下側が伸びます。
逆に、コレクタ電流が小さいときは、微分抵抗が大きくなりますので、ベース電流変分が小さくなり、増幅率が小さくなります。 つまり、コレクタ電流の小さい(出力電圧が上の方にある)ときは伸びない、というわけです。

左の図はダイオードの理論式から hFE=300 として導いたベース・エミッタの電圧電流特性です。
傾斜の逆数は 0.6V で 2kΩ、0.55V で 16kΩ 程度です。 2SC2240 のデータシートも似たり寄ったりの値になっています。
ベース電流は電圧の高いところでは流れやすく、低いところでは流にくくなります。

では、この問題を緩和させるためにはどうすればいいでしょうか。
いくつか改善案があります。
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1. 信号源インピーダンスを高くする

電圧源でドライブするのが問題なのですから、電流源に近づけるために信号源抵抗を大きくしてみます。 アッテネータのインピーダンスレベルを 100 倍にし、バイアスも 10 倍の抵抗にします。
写真で分かるように、かなり改善されます。 でもまだ不満が残るカーブですね。

2. 補正する

信号源抵抗が小さくなる原因にこんな回路があります。 前段が PNP トランジスタで、そのコレクタ電流を拾うときです。 2段目のベース・グラウンド間は電圧が大きくできませんので、PNP のコレクタ負荷抵抗は比較的低くなってしまいます。
ダイオードを1つ入れますと、PNP のコレクタ電流が小さいときはダイオードの微分抵抗が高くなりますから PNP 段の増幅率が高くなります。 ちょうど上記の問題と逆方向ですのである程度補償することができるのです。
まあ上の1番と同じ程度の改善になります。
3. ブートストラップ

ベース・エミッタの接合電流が大きく変動することが問題なのですから、エミッタ電流を一定にすることを考えます。上に、2つのブートストラップの方法を描いてみました。 実験には手っ取り早く組める左の回路を使いましたが、電源利用率を考えますと右側の方がお勧めです。 このブートストラップは、コレクタから外を見たときの交流インピーダンスを極端に上げる役目を持っています。 だいたい 100 倍位になります。 交流インピーダンスが高いということは、交流的には定電流だと言うことです。
ゲインもそれに応じて非常に高くなり、90dB ほどになります。
写真で分かるようによく改善されます。 カーブの上の方がややつぶれていますが、右側の回路を使うとさらによくなります。
ゲインが大きいのでミラー容量が無視できなくなり、1kHz という低い周波数でももう位相ずれが起きています。
4. 定電流負荷

もちろんきちんと定電流の負荷にしてやると歪みは無くなります。 上のブートストラップと同様の改善がなされます。
左の回路がその例ですが、部品数が多くなりますね。 この方法はオペアンプの内部で使われています。
気を付けなければならない点は、コレクタ電位が上か下のどちらかにへばりついてしまいますから、定電流源側か増幅素子側のどちらかにフィードバックをかけてコレクタ電位を動作位置に持ち込む回路が別途必要になることです。
5. エミッタ抵抗

ベース・エミッタを直接定電圧信号源でドライブすることが問題なのですから、エミッタに抵抗を入れて浮かせ、エミッタの電位変分をベースの電位変分と同じ位相で同じ程度振ってやると、ベース電流変分は小さくなります。
ON になる側でエミッタ電位が上がりますから、コレクタの振幅はそれだけ狭まります。 なので、コレクタ抵抗は 4.7k から 3.9k に変更しました。
この回路は単純で改善効果も高いのですが、なんせゲインが稼げません。 およそ [コレクタ抵抗/エミッタ抵抗] 程度になります。 図の回路ですとほぼ 12dB ということです。

写真はずいぶんいいカーブになることを表しています。.
ただし、ベース・エミッタ間に外部の抵抗(エミッタにある抵抗)がつきますから入力換算のノイズレベルは不利になります。

ゲインが下がることに関しては、妥協して一部だけバイパスする手はあります。 左の図です。
[まとめ]
大振幅のエミッタ接地 A 級増幅段を、低いインピーダンスでドライブすると2次歪みが発生する。
対策が必要である。
